Sutter Health社はカルフォルニア州をベースとした非営利医療システムを運営している企業で、国内24拠点、5万人のネットワークを持つ。現在建設中の「California Pacific Medical Center」(CPMC2020)の「Van Ness & Geary Campus」は、地上12階、6万9000平米で、274の病床を収容する計画だ。
このプロジェクトは、関係企業が初期の段階から協力して最適な建物を目指す「インテグレーテッド・プロジェクト・デリバリー」(IPD)を実践している。施主のSutter Health社、設計のSmithGroupJJR社、施工のHerreroBOLDT社が「大部屋」(英語でも「Oobeya」という)と呼ばれる1つの事務所に集まり、総勢250人以上で作業を進めている。
大部屋の入り口近くには、「インテグレーテッド・フォーム・オブ・アグリーメント」 (IFoA)と呼ばれる契約の約款が、カギのかかったアクリルケース入って飾られている。IFoAとは、施主、設計会社、施工会社などがプロジェクトの予算配分や各工程のコストを事前に見積もって結ぶ契約のこと。事前にコストやプロセスを明示し、その責任の所在を明確にする効果がある。
しかし、Sutter Healthの施設および不動産を管理するプログラムマネージャーのパノス・ランパサス氏によれば、このIFoAによる契約はシンボル的な存在であり「ケースのカギは捨てた」という。実際にプロジェクトを進める中で「IFoAの契約内容は違う」といったトラブルを回避するためだという。契約や個々の企業の損得だけにとらわれるのではなく、「病院施設の竣工」という1つの目標に向かって全員が協力することが重要である、という施主の意識の表れである。
また、IPDという特殊な契約形態の中で円滑なコミュニケーションを図るためには、BIMが不可欠となっており、約10人が常駐するBIMルームでは、構造、設備、ドライウォール業社などのプロジェクトマネージャーが自らBIMデータを扱い、その場でさまざまな決定を行っているという。施主が先導し、設計者や施工者とリスクを共有してコストと工期を順守するために、BIMというテクノロジーを活用しているのだ。
今回は、設計者、施工者、施主という建設プロジェクトにおけるステークホルダーの将来像を、米国の最新現場の様子とともに考察してみた。もちろん米国と日本では建設業界の仕組みや商習慣も異なり、単純比較で同じ将来像が描けるわけではない。とはいえ、先進的な取り組みから学べる部分も大きく、特に利益性の高い事例は積極的に参考にするべきだろう。
そして、こうした業界変革は間違いなく近いうちに日本でも起きるといえる。国内では金融をはじめ、製造業、流通・サービス業など、ICT活用による大きな変革が既に起きている。建設業界にはその変革はいつ訪れるだろうか。いや、その変革は起きるかどうかではなく、どう起こすかという時代になっているのかもしれない。
オートデスクジャパンのAECセールスディベロップメントエグゼクティブ (SDE) である濱地和雄は、建築業界に対する長期的なビジョンを作り上げ、インダストリーリーダーを探訪することでBIMマンデートをドライブ。設計事務所や建設会社、教育研究機関、業界団体など幅広いソースから得た、充実したテクニカル、ビジネス、事業アイディアを促進することで高い評価を得ています。濱地はニューヨーク大学で建築学および都市設計の学士号を得ており、SDEの責務にないときは映画を鑑賞し、東京都内で家族と過ごしています。
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