最大の特徴は住宅だけではなく、その周辺を含めた質の高い住環境を整備した点にある。設計を担当した三井ホーム 建築デザイン研究所の荒井信之氏が掲げた「のこす・つなぐ・ひらく」という哲学に基づいている。
開発地には、もともと緑豊かな邸宅があり、プロジェクトでは既存邸宅と周辺地域に受け継がれてきた記憶や環境を消し去るのではなく、いかにして現代の賃貸住宅の中に昇華させるかをテーマとした。
「のこす」を象徴するのは、敷地の北西に堂々とそびえる高さ15メートルを超える大樹だ。シイの仲間と推定される巨木は、京王線「八幡山」駅のホームからもその姿を望める地域のシンボルとして親しまれている。プロジェクトでは、巨木を囲むように「大樹の広場」を整備。広場の入口には、かつて稲荷社や鳥居があったルーツを重んじ、くぐって入ることを意識したゲートを配した。
「つなぐ」という観点では、既存の資源を新たな風景の中に再構成する手法を取った。かつて邸宅のアプローチに使用されていた灯籠や景石、雪見灯籠を敷地内に再配置し、時間の重みを空間に付与した。
特筆すべきは、かつて都電の敷石として使われていたという大判石材の再利用だ。都電の払い下げ品だった石材は、ひとつずつ丁寧に測量し、歩行者専用のフットパスとしてレイアウトし直した。ちなみにフットパスは、「つなぐ小径」と名付けた。古い素材と新しい建築が編み込まれるようなランドスケープは、新築直後が完成ではなく、年月を経てより美しくなる街を見据えてデザインした。


七番館のそばには、メインストリートから「大樹のひろば」側へ抜ける「つなぐ小径(こみち)」を整備。敷かれた石材は都電の敷石として使われていたものだ。かつての邸宅にあった灯籠も置かれている。足元は行灯風の照明が照らす演出だ最後の「ひらく」では、閉ざされた私有地を地域に開放し、周辺住民からも「良い街ができた」と歓迎される開発を目指した。敷地内には数字の“7”のようにつないだ“7字型”に道路を通し、視線が抜ける開放的な配棟計画とした。
7字型の道路は、幅が6メートル。舗装には石畳風の素材とインターロッキングを組み合わせ、通行する車両の速度を視覚的に抑制する手法を取り入れ、歩行者の安全性と景観美を両立させた。
また、電柱の埋設こそコスト面で断念したものの、建物の配置や植栽、照明計画で、電線の存在が景観を損なわないように細部まで工夫を凝らした。
石畳風の舗装が施されたメインストリート。敷地内を数字の“7”のようにつなぐ道路。視覚的デザインによって、クルマがスピードを緩めるような配慮がなされているのが特徴だ。道幅は6メートルあり、車も余裕をもってすれ違えるCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
人気記事トップ10