駒井氏は、青森県でFMに取り組むきっかけとなった長寿命化対策として、弘前工業高等学校の管理教室棟の事例を挙げる。
プロジェクトでは大規模改修工事にあたり、建築科3年生6人が中心となり、生徒ら利用者の声を設計へ反映する「校舎リフレッシュ計画」を策定した。在校生へ要望を聞き取ったり、課題研修として生徒と教職員が話し合ったり、県の営繕課職員も助言しながら、校舎アイデアの実現可能性を探ったりした。結果、生徒が日々生活する導線に合わせた進路指導室や図書室の配置、生徒用サロンやフリースペースの設置、中廊下への採光確保などに生徒の意見を取り入れた。駒井氏は「ユーザーの声を取り入れることで、(新築ではなく)改修でも思い入れを持って大事に使ってもらえるという教訓を得た」と振り返る。
高校の事例をベースに、2008年に県有施設の目標使用年数を定めた「青森県県有施設長寿命化指針」をとりまとめた。その指針が、大規模プロジェクトとなる青森県庁舎の耐震と長寿命化の改修事業へとつながった。
県庁舎の再生では、最小の費用と環境負荷の低減を考え、建て替えではなく、1960年竣工の建物を減築改修して築100年まで使えるようにした。工事は耐震性能が不足している南棟や東棟、議会棟の3棟が対象で、必要な耐震性能確保と改修後40年程度の供用を目標に、2015年度から2018年度にかけて実施した。
施設規模は階数を2階減らし、延べ約3200平方メートルを縮小して、地下1階/地上6階建て延べ2万4758平方メートルとした。減築せずに従来の耐震補強で行った場合は、134カ所の壁補強が必要で、執務室の分断も多数発生してしまう見込みだった。減築とすることで補強箇所を最小限に抑え、執務室の分断も1カ所で済んだ。
事業費は約93億2200万円に収まり、もし建て替えた場合は185億円の試算だった。仮に建て替たとしても、老朽化して数十年先には大規模改修が必要となる。駒井氏は「改修で長く使い続けることでライフサイクルコストとホールライフカーボンを大幅に減少できる。人口減は続くため、将来の適正規模にも対応可能だ」とメリットを語った。
青森県庁舎の改修は業界内外で高く評価され、2018年に第13回 日本ファシリティマネジメント大賞特別賞、2023年に公共建築賞 国土交通大臣表彰、全建賞、JIA優秀建築線などを受賞している。
県庁舎の基本設計は、昭和期に活躍した建築家の谷口吉郎が手掛け、新築時にはシンプルで能率的な設計をコンセプトとしていた。改修工事で動線を整理し、原点に立ち返った姿は、風土性を生かした意匠を継承する県のランドマークとして、改めて愛されるものとなった。
駒井氏は「県のFMと営繕の取り組みを象徴するプロジェクトとなった」と評し、これからの社会の既存建築物の扱いについて、「人口が減少していく社会での老朽化対策は、FMの視点に基づき、現代に求められている機能を付加することが重要となる。言い換えるなら、利用者に愛される既存建物の活用方法が求められている」とFM視点での改修の心構えを説いた。
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