本連載では、FMとデジタル情報に軸足を置き、建物/施設の運営や維持管理分野でのデジタル情報の活用について、JFMAの「BIM・FM研究部会」に所属する部会員が交代で執筆していく。本稿では、構造計画研究所 デザイン工学部 CMデザイン室 室長の辻村啓一氏がインフラ維持管理でBIM×FMの発注者が抱える問題点と、BIMを土台としたデジタルツイン手法を紹介する。
構造計画研究所は、学問知と実務で鍛えられた経験知を掛け合わせた「工学知」をベースに、建設防災、情報通信、製造、意思決定支援など幅広い分野で技術コンサルティングとシステムソリューションを提供し、社会の課題解決に貢献する企業です。私の所属する部署では、BIMを基盤としたシステム開発を主軸としています。現在、BIMの活用は単なる設計・施工の枠を超え、建物のライフサイクル(スコープ軸)全体および施設管理者や発注者(利用者軸)へと、その範囲を大きく広げています。
建設業界全体のDXが進む中、BIMはもはや不可欠な技術要素となっています。ゼネコンや設計事務所では浸透しつつありますが、オーナーの発注者、特に公共施設やインフラを管理する事業者は、その導入や活用方法を模索している段階にあるのが現状です。
多くのインフラ事業者が抱える課題は、単に「リソース不足」だけではありません。旧来の手法では、EIRやCDEといった要件に対応できず、将来受注者が見つからないリスクさえ危惧されています。
しかし、最も根本的な課題は、「BIM導入の必要性や目的が明確になっていない」ことです。発注者の話を伺うと「取り組まなければならない」という意識が先行しており、BIM導入自体が目的化しがちな印象を受けます。また、担当者の上層部が過度な期待を抱きがちで、組織内の縦割りや地域差、現場との温度差といった構造的な課題も導入の大きな障壁となっています。
インフラ事業者がBIM導入に踏み切れない根本的な理由は、BIMが単なる技術やツールとして捉えられ、「なぜ、何のために使うのか」という目的が不明瞭なためです。BIM×FMは、確かにライフサイクルコストの最適化や予知保全といった大きなメリットをもたらしますが、あくまでも「業務改善」という目的を達成するための手段に過ぎません。
理想的なアプローチは、まずインフラ事業者それぞれの「業務フロー」を徹底的に分析することです。
<業務分析の主な視点>
こうした現状を詳細に把握することで、真の課題と具体的な改善箇所が見えてきます。その改善のためにBIMやFM、デジタルツインがどう役立つのかを検討していくのが、最も確実な業務フロー改善の道筋です。
しかし、発注者側のリソース不足や組織的な壁によって、詳細な業務フロー分析が難しいケースも少なくありません。その場合でも、BIM×FMの検討は非常に有効と考えられます。なぜなら、BIMモデルを中心に情報を集約/管理する仕組みを構築すること自体が、結果的に部門間の連携を促し、業務のボトルネックを可視化するきっかけになるからです。
BIM×FMを導入することは、単にデータをデジタル化するだけでなく、情報の一元管理、建物データに基づいた意思決定、そして点検/修繕プロセスの標準化という効果を得ることで、インフラ管理に不可欠な業務改善を促進します。このプロセスを通じて、これまで見えなかった組織や業務の課題が浮き彫りになり、次のステップとして、より詳細な業務分析に進むことも可能になります。
BIM×FMは「業務改善」という本質的な目的を達成するための最終的な手段であると同時に、現状把握が難しいインフラ事業者にとって、業務フローの改善へ第一歩を踏み出すための現実的なアプローチにもなり得るのです。
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