BIM×FMを実現するためには、まずBIMモデルという「土台」が必要です。
BIMモデルの準備は、インフラが新設か既設かによって難易度が大きく異なります。新設インフラの場合は、RevitやArchicadといったBIMオーサリングソフトを用いて設計情報からモデルを一から作成する、または発注者がEIR(情報交換要件)に必要な情報を組み込んで受注者に依頼できるなど、FMに活用できるモデルを比較的容易に準備できます。
一方、既設インフラは、そもそもBIMモデルが存在しないため、過去の図面や修繕記録など元となる情報を集めるところから困難が伴い、その後のモデル構築にも膨大な時間とコストが掛かります。
そこで有効と考えられるのが「点群計測技術」です。点群計測ではレーザースキャナーで構造物をスキャンし、現状の正確な3D形状モデルを効率的に作成します。
当社では、点群計測の分野ではドイツNavVis(ナビビズ)製移動式レーザースキャナーを取り扱っています。NavVisの特徴は、人が背負って歩くだけで、周囲の環境を1秒間に数百万点という速さで点群データを取得できる点にあります。従来の据え置き型では難しかった広範囲な場所でも、短時間で効率的に高精度なスキャンが可能になります。同時に撮影されるパノラマ画像と合わせると、まるでその場にいるようなリアルなデジタルツインを構築します。
計測したデータは、NavVisが提供する3次元Webビュワー「IVION(アイビアン)」で一元管理されます。IVIONは専門的なソフトウェアを必要とせず、Webブラウザから誰もが直感的に3D空間を操作可能で、ストリートビューのように空間を探索したり、寸法を測ったりできます。さらに、設備情報や点検記録を付与することで、複数の関係者がいつでもどこでもインフラの最新の状態を視覚的に把握できます。点群データ(形状モデル)に、建物運用に必要な情報を紐(ひも)付け、活用していく仕組みこそが、まさに広義のBIMと言えます。
当社は、この広義のBIMを基盤にBIM×FMを実現することで、「データの見える化」と「資産の戦略的な活用」を両立させ、日本のインフラの維持管理を、より安全で持続可能なものへ進化させていきたいと考えています。
当社が着目するFMの業務対象には、電気や衛生、空調といった多種多様な設備があります。こうした設備の多くは、同一の部屋や系統に属する設備同士が相互作用して機能しています。1つの設備で発生した一見小さな不具合や隠れた故障が、相互作用によって連鎖的に影響し、思いも寄らない大規模なトラブルとなるリスクが潜んでいます。そのため、連鎖関係を読み解き、対応にあたることこそが、設備管理の難しさです。
設備の複雑な連鎖関係を正確に表現できるモデルが「ネットワーク構造モデル」です。本モデルでは、建物や部屋、設備の要素を「ノード=点」とし、各要素の入れ子関係や配管や配線による接続関係を「エッジ=線」としてデータ化します。このように構築された建物全体になると、「部屋と設備がつながった巨大なネットワーク」として可視化や分析が可能になります。
ネットワーク構造モデルの活用は標準化も進んでおり、代表的な枠組みとして「Brick Schema※1」や「RealEstateCore※2」が知られています。これらの枠組みは、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)のデジタルアーキテクチャ・デザインセンター(Digital Architecture Design Center:DADC)が発行する「スマートビルシステムアーキテクチャガイドライン」にも取り入れられています。
※1 Brick Schema:Brick Consortium(非営利組織)が開発を主導するオープンソースのデータ形式。建物内の設備やセンサーなどの要素と、その関係性を定義する
※2 RealEstateCore:Microsoftと不動産業界団体などが開発したオープンソースのデータ形式。不動産管理に関連する情報構造を定義する
当社は、ネットワーク構造モデルを実務に応用し、製造業の設備管理者やビルメンテナンス事業者などを対象とした「デジタル系統図システム」を開発しました。本システムは、複雑なネットワーク構造モデルを実務者が直感的に理解しやすい「系統図」の形式で表示します。さらに、モデルを活用することで、故障の連鎖影響範囲の推定や設備増設時のキャパシティー判断をサポートします。
「デジタル系統図システム」の最大の狙いは、設備管理の現場で長年課題となっていた「現物と情報の乖離」を解決することです。従来、設備を増設や変更するたびに手作業で図面を修正するのは多大な工数がかかり、次第に更新が追いつかなくなっていました。その結果、「重要な情報である図面が古く、現場の実際の状態と合っていない」という問題が常態化していました。
本システムでは、設備増設時などにネットワーク構造モデルのデータを追加/変更するだけで、系統図のレイアウトが自動的に調整/更新されます。こうした「変更の容易さ」こそが、現物と情報が常に一致した状態を維持する突破口となると確信しています。
インフラ事業者が直面する老朽化という不可避の課題は、待ったなしの状況です。持続可能なインフラ経営を実現するためには、もはや旧来の慣習に囚われている余裕はありません。
BIMとFMの連携は、単なる新しい技術の導入ではなく、業務フローを根本から見直し、組織の課題を可視化するための強力な手段です。業務分析が困難であっても、BIMを中心としたデータ管理を始めること自体が、部門間の壁を壊し、非効率性をあぶり出すきっかけとなります。
構造計画研究所は、「データの見える化」と「資産の戦略的な活用」を通じて、インフラ事業者のDXへの第一歩を支援します。BIM×FMの検討は、未来の安全と持続可能性を担保するための今すぐ始めるべき最優先事項です。BIM×FMへの変革を踏み出し、老朽化という課題を成長の機会に変えていくべきです。
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