北野建設で最も多い非構造化データは、現場作業のトラブルを解決するために講じた対処方法や指摘事項をExcelにまとめた報告書だった。例えばスチールドアの防水対策で気を付けるべきポイントなどで、文字だけでなく、段差の高さや材料などが図面に記述されていた。しかも対応した担当者ごとにバラバラの基準で作っているため、統一的に検索するのが難しく利活用できない要因となっていた。
だが、構造化データにしたことでデータが標準化し、生成AIによるデータベース検索が容易になった。施工のノウハウとなる文字や図を生成AIが文章で説明してくれるようになり、若手の技術/技能の承継にも役立つ。北野建設とのプロジェクトでは、技術や工法、規定、ヒヤリハット事例などの情報収集や週次報告書の一部の自動作成を実現し、検証結果をフィードバックすることで実用的なソリューションの構築を目標に設定している。
日立ソリューションズの担当者は、「これまで活用できてなかったデータを構造化し、特定の建設会社に特化した新しいデータベースを作り、AIに投げれば、これまでにない新しい作業が可能になるのではないかとの考えで一緒に検証している」とプロジェクトの意図を説明する。
ナレッジ活用で何ができるかについて、「建設業では人手不足が深刻で、若手の指導にまで手が回らない。生成AIであれば、若手社員自身が技術や技能の文書を探して“分からないを無くす”ことになり、人材育成につながる。ベテラン社員にとっても、現場から事務所や本社へ戻らずに、その場にいながら施工管理のチェックリストや報告書など書類作成が自動化できる」と導入メリットを説明する。
ブースでのデモでは、Excelや報告書に限らず、建設会社が使用しているさまざまな施工管理システム/アプリとの連携も見据え、スケジュール遅延のリスクを可視化し、人員の増員指示などを生成AIで行った。イメージとしては、「鉄骨の組み立てで遅延リスクがあるから、溶接作業から5人追加するとスケジュール通りに終わるか」と投げかけると、AIモデルが「それでは遅れるため、前のボルト締め作業からプラス2人を追加してください」と答えるような利用シーンだ。
「施工管理アプリを導入している企業は多く、現場作業員はさらに新しいツールの操作を覚えるのに難色を示しがち。そのため、当社の提供する生成AIは新しいアプリとしてではなく、施工管理アプリの裏で連携して業務支援する形を想定している。生成AIは建設分野での活用はまだ始まったばかり。テストケースが少ないのでユーザーの要望を聞きながら、現場で使われるように開発を進めている」と担当者。
日立ソリューションズは今後、北野建設からのフィードバックをもとに、生成AIの回答精度向上と適用業務範囲の拡大を進め、2025年中のローンチを計画している。
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