このように、自社の事業活動や販売した建物の使用に伴うCO2排出量削減は順調に進んでいる一方で、残された課題が資材製造段階の脱炭素化だ。バリューチェーン全体の排出量のうち約2割を占め、販売した建物使用段階の排出量に次いで多い。現状では削減の見通しが立たっておらず、2030年まで横ばいを想定している。建物使用段階の排出量は削減が進んでいるため、相対的に資材製造段階の排出量の割合が増え、2030年度には約3分の1に達する見込みだ。
また、建物のライフサイクルにわたるCO2排出量には、建物の建設に伴って発生する「エンボディドカーボン」(資材の調達から輸送、建設、廃棄まで)と、建物の運用に際して発生する「オペレーショナルカーボン」(エネルギー消費など)がある。
建物のライフサイクル全体では、エンボディドカーボンの割合は約3割にとどまる。しかし建設時に短期間で大量のCO2を排出するという特性上、新築から10年に限ってみると7割を占める。目標までの時間的制約を考慮すると排出量削減は喫緊の課題だ。
そこで大和ハウス工業では、サプライヤーへの働きかけと、資材/建物自体の脱炭素化という2つのアプローチに取り組んでいる。
主要サプライヤー約200社に対しては毎年アンケート調査を実施し、排出量削減に向けた取り組み状況の報告を求めている。サプライヤーはグローバル企業から家族経営の中小企業まで幅広い。サプライヤーの規模や取り組み状況に応じて、複数のエンゲージメント手法を活用する。
全ての主要サプライヤーを対象に実施するのが脱炭素方針の説明会/研修会だ。大和ハウス工業の方針に加え、気候危機の現状やESG経営の重要性などを周知する他、大和ハウス工業や先進的なサプライヤーの取り組み事例も紹介する。
次に、排出量削減には取り組んでいるものの削減目標を設定していないサプライヤーに対しては「脱炭素ワーキング」を展開。複数社に集まってもらい、各社の課題を共有しながら自主目標の設定を支援する。
目標を設定済みの企業に対しては「脱炭素ダイアログ」を実施する。サプライヤーの環境部門などとも直接コミュニケーションを取り、相互理解を深めながら、国際的に求められるSBT(Science Based Targets)水準の目標設定を促す。
これらの取り組みにより、2020年度には2割を下回っていた主要サプライヤーの目標設定率は、2023年度に91%に到達、SBT水準の目標設定は57.7%に達した。小山氏は「SBT水準の目標設定について2024年度は8割を目指している。脱炭素に向けた仲間づくりは着実に進んでいる」と強調した。
サプライヤーへの働きかけは「目標を立てて終わり」ではない。大和ハウス工業の省エネ/創エネソリューションの提案などを通じ、目標達成に向けた支援も行う。2022年度から2023年度で累計15件、約900トンのCO2削減につなげた。
建物の脱炭素の取り組みでは、オートデスクと共同で、建物のBIMデータを基に設計の初期段階から建物の資材製造に関わるCO2排出を可視化できるツール「ICT(Integrated Carbon Tool)」を開発した。
BIMデータで再現された柱や梁(はり)などの部材だけでなく、BIMデータで再現されない接合部材などの排出量も算定できる。算定に関する専門知識は不要で、施工管理ソフトと連携し、部材を入れ替えたりプランを見直したりすることで、排出量をどの程度削減できるか簡単にシミュレーションできるのが特徴だ。現在はエンボディドカーボンの約半分を占める構造躯体のみ対応としているが、今後は外装材や設備、内装材などにも拡大し、活用の幅を広げて行く考えを示した。
また、全建物タイプで木造/木質化を推進している。鉄骨技術を生かしながら木を取り入れることで、排出量を低減するとともに、炭素固定化にも期待できる。
木質化の取り組みの1つが、拘束材に集成材を使用した座屈拘束ブレース「木鋼ハイブリッドブレース」の開発だ。軽量で高強度の鋼材と炭素固定効果がある木質材料を組み合わせることで、従来の座屈拘束ブレースと比較して製造時に生じるCO2排出量を最大65%低減する。
大和ハウス工業では、カーボンニュートラル実現に向けた重点領域の1つに木造/木質建築事業を掲げ、2023年10月には非住宅の木造化/木質化を推進するプロジェクト「Future with Wood(フューチャー・ウィズ・ウッド)」を発足。さらに2024年12月、農林水産省と「カーボンニュートラルの実現に貢献する建築物木材利用促進協定」を締結し、2023年度の実績をベンチマークとして5年間で木造/木質化する建築物の総床面積を倍増する目標を掲げた。
小山氏は「いずれもまだ実績に大きなインパクトを与える取り組みにはなっていないが、引き続きサプライヤーとの協働を進めながらスピード感を持ってスケールさせていきたい」と語った。
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