JR武蔵野線が採用したパナソニックのAIカメラシステム 冠水が多い線路で排水ポンプを遠隔監視スマートメンテナンス(1/2 ページ)

JR武蔵野線では、線路の冠水を防ぐ排水ポンプの遠隔監視に、パナソニック エレクトリックワークス社のAIカメラで監視するシステムを導入した。これまでポンプの異常通知があった場合、現地に行かなければ異常内容が分からずタイムロスだったが、素早い復旧作業が可能となった。

» 2025年01月22日 09時11分 公開
[川本鉄馬BUILT]

 日本の公共交通機関は信頼性が高く、特に鉄道網の発達と品質の高さは圧倒的で海外でも高く評価されている。質の高い鉄道サービスには、災害の備えや定期的なメンテナンスが欠かせない。

 今回は、鉄道インフラ維持管理の一例で、東日本旅客鉄道(JR東日本) 八王子支社とパナソニック エレクトリックワークス社が取り組む、路盤排水ポンプ監視システムを紹介する。

勾配がきつく湧水箇所も多い武蔵野線 2020年には46本もの運休が発生

 路盤排水ポンプは、レールや枕木などの設置箇所を大雨などによる冠水から守る設備だ。地味な存在にも思えるが、線路が冠水すれば列車の運行ができず、ダイヤは大きく乱れる。鉄道の安定的な運行を支える重要な役目を負っている。

 JR東日本 八王子支社では、管内11カ所に排水ポンプの施設があり、武蔵野線は特に多くの施設接している線路だ。ルート上には勾配が多く、そうした箇所では地下水が地上に湧き出やすいため、排水ポンプを設置している。

武蔵野線の沿線近くで稼働する排水ポンプ施設。2台のポンプにより、貯水槽にたまった水を排水している 武蔵野線の沿線近くで稼働する排水ポンプ施設。2台のポンプにより、貯水槽にたまった水を排水している 写真は全て筆者撮影

 大雨が降った際には地面に雨水が浸透し、2〜3日後に路面に湧き出してくる。こうした状況では、地下水だけでなく湧き出た雨水もポンプで排水する必要がある。だが、急激な湧き水が発生するとポンプの排水能力を上回り、線路に水があふれてしまう。2020年6月6日には大雨によって線路が冠水し、46本もの運休が発生。最大316分の遅延も起き、運行ダイヤを大きく乱す事態となった。

 アクシデントを防ぐには、日常的にポンプの稼働状況を把握しておかなければならない。中でも不具合の予知は重要で、冠水の危険性が高まったときは、追加でレンタルポンプを用意するなどの準備も欠かせない。

AIカメラ導入で、いち早く不具合を把握

 これまで大雨やポンプ故障などの発生時には、音声で情報を伝えていた。ポンプの排水能力が水の増加に追いつかない際は、不具合を発見したポンプの監視番が“沿線電話”でJRの情報部門に状況を伝える。“沿線電話”は、高速道路やトンネル内などに配置されている非常通話用の電話と同様のものだ。電話連絡を受けた情報部門は、そこから電力部門に情報を伝えた後、電力部門の指令員が設備技術センターに現場への派遣を要請する。現場に向かった作業員は、状況を確認してからその場で対策を講じる。

 こうした手順を踏む、複数の部署を経由するため、情報が伝わるのに時間を要し、作業員が現場に到着するまでは何ら対策ができず復旧まで時間がかかっていた。

 改善のため、JR東日本 八王子支社では、排水ポンプの監視にパナソニック エレクトリックワークス社のAIカメラシステムを導入。不具合発生時にも、遠隔で排水ポンプの状況と貯水槽の水量が確認できるようになった。仮にポンプでトラブルが起きても遠隔で情報が得られるため、復旧までの時間短縮が期待できる。

 JR東日本 八王子電力設備技術センター 福原安志氏は、「遠隔でどこが悪いのかが見えるようになった。従来はおよそ3時間必要だったダウンタイムが2時間程度になり、復旧後の監視負荷も軽減された」と説明する。

 JRには機器に何か1つでも故障があれば、復旧後にも1週間程度は現場で人が監視しなければいけないというルールがある。AIカメラを使った監視システムに置き換わることで、保全に関わる人員の負担が大幅に軽減されるわけだ。

AIカメラによるポンプ監視で復旧までの時間が短縮可能に AIカメラによるポンプ監視で復旧までの時間が短縮可能に 提供:JR東日本 八王子支社
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