PCa(プレキャストコンクリート)製造工程とBIMの事例研究から、「パラメーター情報(データ)主導の連携」というフロントローディングの一つの在り方が見えてくる。それは、ゼネコン側でBIMモデルに最低限は、「鉄筋種類、長さ、重量、位置情報」といった属性情報(パラメータ情報)を登録し、BIMデータをPCaメーカー(その他専門工事会社)に渡すというデータ主導のワークフロー(ルール)であるべきだろう。
前編では、PCa製造で、Revitを利用して製品をモデリングすれば、その製造工程の効率化が図れるはずと申し上げた。すなわち、製品図アウトプットと同時に、数量の把握が可能となるため、数量を既存の積算システム(ほぼExcelで拾っている)と連携すれば、いわゆる「拾い作業」は相当に効率化できることになる。
また、ソフトウェア上で全ての図面が連携すれば、ある部分の修正が瞬時に全ての図面に反映されることにもなる。確かに、RevitのPCa製品モデリング、製品図アウトプットにも、相当程度のRevit知見は必要だが、熟練工でなくともソフトウェアの力を借りれば検討、修正、数量拾いが可能になる。
ここで、まさにこうしたメリットを狙って、新潟県魚沼市に本社を置き、2023年初頭から当社(M&F tecnica)協力のもと、PCa製造工程のBIM化に取り組んでいる建築分野専門のPCa製品製造メーカー「大栄産業」のユースケースを紹介したい。
★連載バックナンバー:
『建設産業構造の大転換と現場BIM〜脇役たちからの挑戦状〜』
本連載では、野原グループの山崎芳治氏とM&F tecnicaの守屋正規氏が共著で、BIMを中心とした建設産業のトランスフォーメーションについて提言していく。設計BIMについては語られることも多いため、本連載では施工現場や建材の製造工程などを含めたサプライチェーンまで視野を広げて筆を進める。
もともと大栄産業は、いち早く業務のデジタイズ(業務IT化)を実現させていたこともあり、ハードウェアの環境は整っていた。そして、代表取締役 櫻井馨氏が“トップダウン”によるBIM化を決断した。一般に中小企業や地方ゼネコンが建設DXのボトルネックになる可能性は危惧されているが、むしろ、トップダウンでとんとん拍子に進むことも多い。櫻井氏の旗振りの下、M&F tecnicaにBIM導入のコンサルティング依頼が舞い込んできた。
当社としては、まずPCa製造工程で、どのような効果を狙ってBIM化を行うのかをヒアリングした。上記のようなさまざまなメリットを享受できる可能性については認識してはいるが、まずは一歩ずつということで、今回の目標としては、「数量拾い(拾い作業)の効率化」に決まった。
確かに、今回の目標は「拾い作業」だが、この作業の効率化は、BIMではイチ効果にすぎなく、そのためだけにBIM化してもコストに見合わない可能性もある。しかし、DX(がらりと変わること)の本来の意味には反するかもしれないが、建設業界のDX=BIM化の加速には、遠回りのようでも、まずは現在の延長線上にある業務で小さな成功体験を積み重ねていくことが重要と捉え、当社も建設業界のBIM化を手伝っている(本シリーズの意図)。大栄産業の櫻井氏も同意見だったことから、この点についてはすんなりと進めることができた(コストの問題はIT導入補助金、BIM加速化事業補助金などの利用を検討)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.