環境整備も、拾い作業にとどまらず、最終的にはBIMでPCaの製造(施工)までを行うことを目標に定めた。そのため当初から、ソフトウェアの選定、ルール化、CDE構築、ファミリ、テンプレートの準備など、最終的な「製造」の過程を念頭に置いていた。ソフトウェアは、「Autodesk Revit(以下、Revit)」をBIMソフトウェアとして利用し、CDEはAutodesk Construction Cloud(ACC、旧BIM 360)」を想定した。
当社チームで環境整備、PCa独特のファミリ(躯体形状)の作成、鉄筋モデリングを行うのに並行して、大栄産業の設計部内の4人名に対してRevit研修を実施した。研修により、PCa独特の躯体形状と鉄筋納まりをRevitでモデリング可能になり、3次元モデルから製品図出力までの対応が実現した。同時に、埋め込み金物などをモデリングし、配置することで数量計算もBIMモデルから自動化し、積算作業もできるようになった。製造設計での部材の形状、配置、仕口部(柱と梁の交差部)などを3次元で正確にモデリングできるようになり、設計ミスや手戻りの削減にもつながった。
今後の課題としては、より積極的に鉄筋と設備、埋め込み金物と鉄筋、設備など干渉チェックをリアルタイムで行い、ゼネコンや設計側とスムーズに早期の問題解決を行うプロセスを確立させたい。さらにデジタイズ基盤があるため、BIMデータを品質検査システムと連携し、一層の品質向上に役立てるなど、製造メーカーならではの取り組みも支援していく。
施工的な納まりの確定情報について、伝達スケジュールの曖昧さなどは、どのような解決策があるかは今後の議論としたいが、遅れれば遅れるほどBIMのメリットは出ない(干渉確認のための2次元図面化も最低限で対応するなど、効率化出来そうなところはたくさん確認できた)。
2023年度末、大栄産業 櫻井氏に今回のBIM化について、小括として意見を伺った。櫻井氏は、「2次元の図面から経、験と勘で予算を組み、PCaを作り、納品し、利益が残ったり残らなかったりという形でこれまで進めてきた。このようなアナログ的で、熟練の勘や経験に依存するフローを変えるには新しい方法を導入するべきで、このきっかけになりそうなトピックとして、BIMの可能性に期待し、取り組むことにした」と話す。
この時点ではBIMの可能性を具体的に認識していたわけではなく、PCa製造フローの変革の「きっかけ」として漠然とBIMに期待していたにすぎなかったようである。
ただ、「製造業の3次元データの活用などを見る中で、データから自発的にアクションしていくような製造業の流れが、建設業の中でできるとしたら、それはPCa製造だろうとは考えてはいた。事前に2次元のデータではなく、デジタル世界の中に実物を情報として作れるのであれば、現実世界のPCa製造にも反映させられるはずであり、こうした方法でしか、PCa製造の業態を変えられないだろう。そして、こうしたアクションをしなければ、当社のような会社は生き残れない」と振り返る。
BIM化の取り組みで分かったことについては、「やはりBIMでは“フロントローディング”が重要だということ。もちろんフロントローディングはフロントに負荷をかけることになる。しかし、今はその負荷が下流にかかっている。そもそも建設業界の業務フローにおいては負荷が一部の当事者に偏っていては、この先は暗いのではないか。負荷はみんなで分かち合うべきだ。また、PCaメーカーが2次元図面からBIM化し、何かするとしても、活用の領域が限定的ではもったいない。もっとフロントでやってくれれば、あみだくじのように可能性が広がっていく。しかも、関わる人たちがもっと楽ができるのに。末端のメーカーがやっていても、そこからつながる下流は小さい。自分達も製造の現場をどうよくしていくのかに向き合わなければならないが、もっと建設業界全体で取り組んでいかなければやはり何も変わらない」と力説する。
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