続いて水野氏は、2021年5月28日に閣議決定された「第5次社会資本整備重点計画」(以下、重点計画)を取り上げ、インフラ老朽化対策におけるアセットマネジメントの重要性を説明した。
重点計画では、社会資本整備の目的を「国民が真の豊かさを実感できる社会の構築」と謳(うた)っており、「安心安全の確保」「持続可能な地域社会の形成」「経済成長の実現」の3つの中期的目的に資する社会資本を整備してストック効果を最大化し、既存のインフラを活用することが大切としている。
水野氏は、ストック効果を最大限引き出す総力として「主体」「手段」と併せて、「時間軸」を取り上げていること、そして「インフラ経営」という用語が用いられていることの2点に注目。時間軸の総力とは、断片的な対応ではなく、ライフサイクルを見据えてインフラ維持管理に取り組むことを指す。一方のインフラ経営とは、インフラを国民が保有する資産として捉え、整備や維持管理、利活用の各段階で、工夫を凝らした新たな取り組みを実施することだ。
特に水野氏は、インフラ経営の定義がアセットマネジメントの定義と同じと強調し、アセットマネジメントによってインフラが生み出す価値を最大限効率的に引き出すことで、国民に真に豊かな暮らしを提供できるとの展望を語った。
水野氏はアセットマネジメントが機能するには、メンテナンス提供者が実施する「点検〜診断〜措置(補修、経過観察、通行規制など)〜記録」のメンテナンスサイクルと、それをマネジメントするアセットオーナーのマネジメントサイクルの両輪を回す必要がある語る。その際は、アセットマネジメントシステムの国際規格「ISO 55000」にあるように、「長期的な組織目標や外部環境の変化の視点などから全体調整を図ること」と、「トレードオフの3要素(コスト、リスク、パフォーマンス)の最適化を図ること」の2点が特に重要と強調した。
インフラの老朽化対策のカギとなるアセットマネジメント。しかし水野氏は、日本でのアセットマネジメントの取り組みは、英国や米国と比べて、20年近く遅れているとする。一例として米国では、「性能規定型維持管理契約(PBMC)」による道路の維持管理が、バージニア州を出発点に2000年頃からスタートしており、水野氏が現地調査した2011年時点で既に12州が実施済み、15州が検討中だった。
しかし、日本では2021年4月時点で、道路のPFIは愛知県道路公社のコンセッション事業1件のみで、インフラ維持管理で包括民間委託を導入している事例もわずか13事例しかない。また、欧米では設計(D)、施工(B)、資金調達(F)、オペレーション(O)、維持管理(M)までを一体で契約する「DBFOM方式」を採用しているが、日本で行われる包括契約は、メンテナンスの措置に含まれる「修繕」と「維持」だけにとどまっている。
ただし水野氏は、「遅れていることは、工夫の余地があるともいえる」と前向きに捉える。今後、取り組みを深化させるには、アセットマネジメント=老朽化対策という考え方からの転換が必要だとした。「インフラメンテナンスは機能を引き出すサービスで、将来の投資に他ならない。そうした位置付けで、この仕事に携わる人たちに夢を提供することにもなるはずだ。また、メンテナンスを機能維持サービスとして、定額で請け負う仕組みができれば、サブスクリプションとしてのニュービジネスが成立する。取り組みの余地が残されている日本だからこそ、こうした観点でビジネス市場を広げていく必要がある」(水野氏)。
さらに、日本は人口減少の先進国であり、世界も一部の国を除いて既に人口減少フェーズに入っていることを考えると、日本で課題を解決したり、ソリューションを開発したりできれば、それを他のアジア地域でも展開できる可能性があると指摘する。「民間の道路会社が持つノウハウを公物に適用し、それを最終的には世界にまで広げるというシナリオが求められている」(水野氏)。
最後に水野氏は、「インフラは納税者(国民)の持ち物であり、ここまでに話してきた取り組みについて、国民と行政、そして実際の担い手である民間事業者の三者がよく理解して、信頼を築きながら進めることも重要となる」と要望した。
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