(3)ドローンの活用
ドローン活用に関しては、「ドローンで広範囲を手軽に撮影することができること、専用ソフトで測量/計測し、データ化が容易であること、過去のデータとの比較で変化量を算出して施工の進捗状況を的確に把握できること」といった理由から、施工管理の生産性向上の実現が期待できます。
2022年のドローン規制緩和(レベル4解禁)を受け、建設業界でもドローン活用が期待されてきましたが、大手ゼネコンやICT導入に力をいれている一部の企業以外では期待ほど活用が進んでいないように感じています。要因としては、一般的に、ドローン導入のための初期コストや専門人材の確保など、コスト面や人材面でのハードルが高いことが挙げられます。
当社でも、ドローン測量に関わる製品を複数扱っており、さまざまな方から問い合わせをいただきます。新規導入を検討されている場合、これまでの測量/計測のやり方や考え方を大きく変えていく必要があるためか、導入に対し、慎重を期される傾向があります。有用性は認めつつ、本格導入に踏み切れない企業も少なくありません。自社導入はハードルが高いため、ドローン測量を外注する企業も多いです。
欧米などのドローン利用事例や実績と比べると、日本はまだこれからというレベルです。今後の拡大には、さらなるドローン技術の発展(自律制御技術、バッテリー寿命など)と人材(操縦士、開発技術者など)の育成が必要でしょう。ドローンは、施工管理の生産性向上のための重要なツールの一つですので、当社もベンダーとして、引き続き注目していきます。
(4)AIの活用
AI技術は日進月歩の進化を続けており、ビジネスの世界のみならず私たちの生活でも重要な技術となっています。建設業界でもAIに対する期待は大きく、建設業界の課題である生産性の向上、品質の向上、安全性の向上を、AIで解決しようという取り組みが活性化しています。AIによる業務の最適化、効率化が実現できれば、もう一つの課題の労働力不足にも効果的です。
設計やデザインでも、AI活用は進んでおり、建築物の条件をいくつか設定するだけでサンプルとして十分使えそうな設計図を複数作成するデモンストレーションも登場しています。また、施工管理ではBIM/CIMのデータと現場の写真や3D点群をインプットすることで、進捗状況や完成度をAIが判断する実証実験が行われています。作業の効率化や判断精度の向上で、効果的な試みだと考えています。
データを基にした客観的な判断と合わせ、ベテラン管理者の経験をAIが学習することで、数多くの現場管理を瞬時に的確に行うという未来は決して遠くないと思います。管理業務の効率化、省力化に関しては、AIの発展が最も重要なポイントなのかもしれません。
前章でコミュニケーションスキルの重要性に関して触れましたが、AIを使えばコミュニケーションの一部をサポートしてくれることも可能かもしれません。AIを介することで、単純な作業指示も現場作業員のモチベーションを高めるような内容にしたり、感情的な内容のテキストメッセージを客観的で冷静な内容に変えてくれたり。生成AIを使っていると、そういった可能性を十分に感じます。ここまでくると「人間がAIに使われはじめている…」といった怖さを感じる面もありますが、AI倫理などのリスクマネジメントで十分対策し、適切にAIを有効活用していくべきでしょう。
上記以外に、ロボットも使い方によっては、施工管理の効率化や生産性に寄与する可能性のあるツールだと考えています。米Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)の犬型4足歩行ロボットと360度カメラやAIを組み合わせたら…と考えるとワクワクしますが、テーマから外れていきそうなので、割愛させていただきます。
BIM/CIMは、建設物の3次元モデルを作成し、設計〜施工〜運用〜維持管理の建設生産プロセスを一元管理することで、生産性向上や品質向上を支援する“情報マネジメント”の仕組みです。BIM/CIMの活用は、建設DXの実現で重要なキーワードです。
国土交通省が推進する「i-Construction」では、「公共事業にBIM/CIMを原則適用」として強力に推進してきました。2023年3月の国土交通省「第10回建築BIM推進会議」で、関連13団体に対して行ったアンケートの結果※として、2022年12月時点でBIMを導入している企業は48.4%との報告がありました。この数値は、企業規模で偏りがあり、従業員300人を超える企業で62.5〜87.8%の高い導入率でした。普及率は確実に高まっている一方、300人未満の小規模の企業にとってはドローン活用と同様に初期コストや専門人材の確保など、BIM/CIM導入でコスト面や人材面でのハードルが高いということなのでしょう。
前章で採り上げたICTツールや技術は単体でも十分効果が見込めますが、BIM/CIMとの組み合せでより精度を高められます。BIM/CIMにより、初期工程で作業を前倒しで進めるフロントローディングを、こうしたICTツールや技術がサポートするという相乗効果もあり得るでしょう。普及率だけではなく、より多くの現場にBIM/CIMが適用されることを願っています。
※国土交通省第10回建築BIM推進会議 参考資料3「建築分野におけるBIMの活用・普及状況の実態調査<詳細>」
今回は「施工管理のデジタル化による改革」と題し、施工管理を支援するICTツールや技術に関して、私見を交えて紹介しました。
施工管理は、業務内容が多岐にわたり、それぞれが煩雑でありながら、責任の重い作業です。全てをひとからげで改革するというのは難しく、一つ一つの業務改善の積み上げの先に改革やDXがあるのだろうと改めて感じました。
さて、次回は建設DXに向けて、建設業界のお客さまと協業した経験のあるエンジニアが、建設業界におけるICT導入の課題と解決策、その展望について語りますので、ご期待ください。
★連載バックナンバー:『建設ICTで切り拓く、現場の安全衛生と生産性の向上』
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