昨今のBIM研究では、完成した建物の管理運用やその先にある技術承継などの新しい活用が模索されている。建築家の村井一氏は、従来の設計・施工といった「作る」ことを目的としたBIMだけでなく、管理運用の「使う」、さらに建築情報を保存/継承する「残す」領域で、BIMがどのように有効かの新たな可能性を探っている。
村井一建築設計を主宰し、東京大学 生産技術研究所 特任助教も兼務する建築家の村井一氏は、「Archi Future 2023」(会期:2023年10月26日、東京・有明TFTホール)で「作る/使う/残すための建築情報とBIM」と題して講演した。村井氏は設計・施工のBIMだけでなく、管理運用段階での活用や建築情報の保存/継承にも言及した。
村井氏は、自らの建築設計事務所で各種のプロジェクトを遂行しつつ、東京大学 生産技術研究所の特任助教として学生に指導もしている。講演では、建築デザインの実務と建築情報の研究という2つの視点からBIM活用を考察した。
村井氏は、建築設計事務所で業務を開始した当初から、CADとBIMの連携を意識し、今では事務所の業務を超える部分でも、自身の研究としてBIMに向き合っている。
構造や設備が一体となった構造システムを開発する際は、専門分野をまたぐ検討が必須なため、各分野の専門家と共同作業が発生する。そういったケースでは、さまざまな情報を一元的に管理するBIMの仕組みがなくてはならない。
意匠設計でも、BIMとゲームエンジンを組み合わせることで検討の視点を変えたり、検討する回数を増やせたりする。こうした試みは、新たなデザインの発掘や設計品質の担保に直結する。
一般的な意匠設計でも、BIMは今や必須のツールとなっている。関係者間の調整や現場でのすり合わせ、部材の数量把握やコスト算出など、BIMデータで属性情報が管理されていれば、必要な情報をBIMから抽出した確認や検討が可能になる。
ただ、村井氏は、建築情報とBIMの実務での情報マネジメントには課題もあると言及する。「建築には多様なステークホルダーが関わるが、建築技術や知識はBIMが登場する前から存在し、実務を行う人々によって支えられてきた。その技術や知識がBIMによって統合され、多くの人に共有されたとき、関係者間で情報理解の習熟度や組織の共通データ環境の足並みをそろえるのが難しい」と説明する。
課題に対しては、「概念的だといわれるかもしれないが、言語化していくことが大切だ」と話す。講演タイトルに「作る/使う/残す」という柔らかい言葉としたのは、こうした理由がある。
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