ジザイエが提供するJIZAIPADを理解する上で重要になるのが、“自在化”の技術だ。自在化は、いわゆる自動化とは異なる。自動化は、人の能力を超える作業や人がやりたくない作業や繰り返し処理などを人に代わって行う。稲見氏は自在化のコンセプトを「当社がやりたいこと、もしくはその向上を感じたいことをアシストしてくれる技術」とする。
稲見氏は、自在化技術を使って2つのことを解明したい口にする。1つは、建設機械のような人型でないロボットをどこまで扱えるのかということ。もう1つは、AI技術が向上した際に、ロボットを操作する人が高いモチベーションで自分が向上している実感をどうやって獲得するのかということだ。実現には、AIと人、あるいはAIとロボットをつなぐ技術が不可欠。自在化身体プロジェクトでは、こうした研究を進め、ノウハウを蓄積してきた。
コベルコ建機は、自在化身体プロジェクトがスタートして間もない2017年から建機の自在化に関する様々なテーマで稲見氏の研究室と共同研究を行っている。今回の出資と業務提携には、このような背景がある。
コベルコ建機とジザイエの業務提携は、これまでになかった産学連携の形を目指す。これまでの産学連携は、大学が知財を作り、企業が使って実用化し、大学はライセンス使用料を得るパターンが多かった。
だが、こうした提携の在り方では、向き不向きの分野があるという。製薬や素材などの分野では一般的にうまくいくが、システムインテグレーション関連ではうまくいかないことが多いようだ。
そこで、今回の業務提携では、現実社会の中に存在する企業体を通じて社会とつながり、フィードバックなどのコミュニケーションを実現する方法を模索した。
ジザイエ 代表取締役/CEOの中川純希氏は、「自在化身体技術の研究ではバイオ系やAI系と異なり、ハードウェアが絡んでくるところが難しい」と語る。ハードウェアとソフトウェアをうまく融合させるには多くの初期投資が必要だが、多額の投資をして生み出したものが必ず売れるとは限らない。大学と企業の間で、知財の契約や方向性の違いによって問題が発生することもある。中川氏も稲見研究室に所属する期間は、頭を悩ませた。
コベルコ建機とジザイエの業務提携と資金調達が実現したのは、こうした課題を解決しようと模索する稲見氏や中川氏、自在化身体技術に早くから注目していたコベルコ建機、人間拡張工学の領域に投資を行う15th Rockなどとのタイミングやピースがうまく合致した結果だ。
今後は互いの連携により、各種情報がジザイエに集約し、他の分野に応用する道も拓ける。15th Rockにはスタートアップを支援するSpirete(スピリート)というコミュニティーがあり、ジザイエが活用していくことになる。
産学連携では、技術の取り扱い/知的財産の管理などで注意すべき部分がある。知的財産となる新しい技術そのものを、単品のまま市場で売ろうとしてもうまくいかない。中川氏は、生み出した技術をJIZAIPADにインストールし、いろいろな産業に展開する構想を示した。中川氏は、「新しい産学連携の手法がデファクトスタンダードになって、もっと起業する人が増ええれば」との思いも口にした。
今回の業務提携と資本参加に関し、15th Rock代表の中島徹氏は「研究ベースで新たに社会実装するべく、ベンチャーキャピタルをしている。何かを作りたいという夢を持っている人たちを応援したい」と話す。これまでに、医療、介護、スポーツ、ヘルスケアなど分野で多くの投資を行ってきた。
投資のテーマは、“人間の能力を拡張する”というもので、脳、体、五感などの拡張がその対象となる。今回の投資は、「技術が進んだこともあり、現場で遠隔操作する分野に未来を感じた」と話す。
コベルコ建機 取締役 常務執行役員 細見浩之氏は、「マシンガイダンス、マシンコントロール、遠隔操作、自動化は建設機械メーカーの事業課題」とし、ジザイエとの業務提携の目的を説明する。さらに、「コベルコ建機がこれまで蓄積してきた技術をジザイエに提供することで、建機以外の分野でも技術が応用されることを期待している。その結果、生まれた技術がコベルコ建機にもフィードバックされることを望んでいる」と展望を語った。
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