ISO 19650は、RevitなどのBIMソフトウェアやクラウドを活用した共通データ環境(CDE)などの技術に、最適化した情報マネジメントプロセスを定義するものだ(ISO 19650-2、ISO 19650-3)。そのプロセスに、情報セキュリティや安全衛生の重要課題(ISO 19650-5、PAS 1192-6)を加えることで、BIMの価値がさらに高まる。さらに、環境対応としてゼロカーボンをはじめ、生産性を圧倒的に変えるDfMA、災害対策などの社会的課題にもBIMの情報が発展的に活用されてゆく。英国では、この情報基盤としてのBIMが、建設業が抱える多くの問題を解決してゆくシナリオを明確に描いている。
英国のシナリオは、BIMに対する多くの研究を基盤として、どのように実践で活用していくかの地道な努力が実を結んだからこそ、実現への道が見いだせたのだ。こうした動きは、英国だけの施策にとどまらず、国際規格としてグローバルで標準化されようとしている。
では、顧みて日本ではどうか?ISO 19650-2の設計・施工の情報マネジメントの認証を受ける企業が続々と現れてきたために、BIMにはプロセスが必要なのだという土台は築かれつつある。だが、情報セキュリティや安全衛生をBIMと結び付けて考えるという動きは、まったくない。日本では設計・施工ツールとしてさえ、BIMソフトウェアが定着できていない状態にあり、さらに情報マネジメントによるプロセスが定着できている企業もほとんどないのが現実だからだ。そこに、情報セキュリティや安全衛生のプロセスを加えろといっても無理があるのも理解できる。しかしながら、国際規格の取り組みに、関心を持ち、研究し、活用方法を考えていくことぐらいは、進めるべきではないか?
建設DXという、これまでにはなかった新しい技術に着目するのは素晴らしいことではある。ただ、新しい技術を模索する前に、これまでずっと建設業界の重要課題であった情報セキュリティや安全衛生などに、BIMを活用することをまず考えてもよいはずだ。そして、日本がBIMでやらねばならないことは、まず先例を学び、日本の商習慣の中で、どう最適化して採り入れるかを検討していくことこそが、真のBIM活用、その先の建設DXへと至る道筋となるだろう。
伊藤 久晴/Hisaharu Ito
BIMプロセスイノベーション 代表。前職の大和ハウス工業で、BIMの啓発・移行を進め、2021年2月にISO 19650の認証を取得した。2021年3月に同社を退職し、BIMプロセスイノベーションを設立。BIMによるプロセス改革を目指して、BIMについてのコンサル業務を行っている。また、2021年5月からBSIの認定講師として、ISO 19650の教育にも携わる。
近著に「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」(2014/日経BP)、「Autodesk Revit公式トレーニングガイド第2版」(共著、2021/日経BP)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.