その後、情報やスキル共有のために、2020年には社内にBIMプロジェクトチームを発足。どのようにすれば生産的・効率的に図面をまとめられるかを中心に、作業工程を検討したり、情報共有の方法を整理したりし、レイヤー設定やマスターレイアウトといった社内の統一基準をまとめたテンプレート作成につなげた。
2020年には、RC造2階建ての物件に、複数人で取り組むチームワークプロジェクトに挑戦。プロジェクトチームで検証した結果、全てにBIMモデルの属性情報を活用することを諦め、仕上げ表、詳細図などは、他のツールを使って生産的かつ効率的に設計を進める手法とした。以後、現在までに取り組むプロジェクトでも、基本的にはBIMと他のツールとの使い分けをベースにしているという。
高橋氏は、こうしたBIM活用の取り組みを続ける中で、新たな問題点が浮かび上がってきたと話す。それは、「何のために、誰のためにBIMに取り組んでいるか」だった。「設計事務所の仕事は、設計図書を作成すること。そのため、BIMでどのように設計図書を作成するかに注力してきたが、改めて振り返ると、“BIM活用”が目的となっておらず、単なる自己満足になっていないかと思う場面が増え、何のためにBIMに取り組むのかの本質がいつの間にか見えなくなっていた」(高橋氏)。
そこでもう一度、BIMに取り組む意義を見つめ直すと、「図面を描くことから、BIMならではの設計にシフトチェンジしていくべきだ」との結論を導き出した。「コスト管理や環境シミュレーション、意匠性を高めるコンピュテーショナルデザインといった社会で求められている分野に応えるため、BIMで設計する。そういう意識改革が設計者に求められていると感じた」と高橋氏は語る。
新しく進む領域が定まった大旗連合建築設計にとって、次の課題はマンパワーをいかに確保するかだ。2Dに慣れた40代以上の設計者が新たにBIMのスキルを習得するのはハードルが高く、一方で主体的にBIMに取り組んでほしい30代は、そもそもの人数が少ないうえに、次世代の教育や上の世代と次世代の橋渡しという役割を担わなくてはならず余裕がなかった。
高橋氏は、こうした課題解決のカギとなるのが、BIMマネジャーやBIMコーディネーターの存在だとする。「ソフトウェアに精通したBIMマネジャーやBIMコーディネーターが関わることで、設計者はBIMへの理解を深めながら、建築的習熟度の向上にも注力できる。BIMと建築設計の2つの習熟度が高まることで始めて、BIMならではの設計アプローチが可能になる」。
最後に高橋氏は、「広島という地方で、BIMマネジャーの存在をどのように確立するかが今後の課題。さまざまな可能性を模索しながら、懸命に取り組んでいきたい」と意気込みを語り、講演を締め括った。
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