BIMを本当に活用するなら「業務プロセス改革」を実現せよ【日本列島BIM改革論:第2回】日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜(2)(1/3 ページ)

「日本列島BIM改革論」の連載第2回では、大和ハウス工業在籍時に日本初となるISO 19650-2の認証取得に取り組んだ伊藤久晴氏(現BIMプロセスイノベーション)が、日本列島BIM改革論の重要テーマの1つとして、「業務プロセス改革」がなぜ必要なのかを提言する。

» 2021年12月08日 10時00分 公開

 建設におけるBIMの国際規格「ISO 19650」に対する関心が、国内でも高まっている。ISO 19650のうち、国内でも既に審査が行われている「ISO 19650-2」は、設計・施工フェーズの“情報マネジメントプロセス”についての規格となる。

 ISO 19650に注目が集まっている理由としては、BIMにおける“プロセス”が規格化されていることにある。日本ではこれまで、従来型の2次元CADを中心とした業務プロセスをBIMツールを置き換えるという方針で、BIMの導入を進めてきたが、それではBIMによる真の成果は得られない。打破するためには、ISO 19650を契機と見なし、業界全体を挙げて「業務プロセス改革」を実現しなければならない。

「ISO 19650」で定義するBIMの本質とは何か?

 最近、日本の建設業界でも周知されてきているBIMの国際規格「ISO 19650」だが、実は正式な名称を知っている方は少ないだろう。正式名称は、「Organization and digitization of information about buildings and civil engineering works,including building information modelling (BIM)-Information management using building information modelling-(ビルディング情報モデリング(BIM)を含む建築及び土木工事に関する情報の統合及びデジタル化-ビルディング情報モデリングを使用する情報マネジメント)」である。言い換えるなら、建築・土木工事の情報を統合またはデジタル化するために、情報をマネジメントしようという規格となる。ここで言う情報とは、設計・施工のためだけに使われるのではなく、維持管理運用やデジタルツイン、デジタルトランスフォーメーションでの活用も視野に入れたものだ。

 現在、英国のBSI(英国規格協会)によって、日本で審査と認証が始まっているISO 19650-2は、「Delivery phase of the assets(設計施工のフェーズ)」であり、設計・施工での情報マネジメントプロセスに対するISOの規格にあたる。

 ISO 19650-1の3.3.14には、BIMの定義が明記されている。引用するとビルディング情報モデリング(BIM)とは、「意思決定のための信頼できる基礎を形成する設計・建設及び運用プロセスを容易にするための建設資産の共有デジタル表現の使用」とある。ここで定義している文言はやや難しいが、「意思決定のための信頼できる基礎」「設計・建設及び運用プロセス」、そして「建築資産の共有デジタル表現」を理解できていれば、自ずと読みとれるだろう。

 「意思決定のための信頼できる基礎」についてだが、建物の設計・施工は、設計者や施工者の提出物に対する発注者の意思決定によって進められる。意思決定を確実に計画通りに遂行するための情報のやりとり(情報デリバリーサイクル)が信頼できる基礎でなければならない。続く、「設計・建設及び運用プロセス」とは、設計〜施工〜維持管理が連携する、本来あるべきBIMプロセスのことを指す。「建築資産の共有デジタル表現」とは、RevitなどのBIMツールで作成される設計・施工・維持管理における構造化された情報のことだ。

 つまり、ISO 19650で定義するBIMとは、「BIMツールなどを使って構造化した建物のデジタル情報により、意思決定における情報デリバリーサイクルによる、設計・施工・維持管理運用のプロセスを構築するもの」と言い換えられる。

 イギリスでは20年かけて、設計・施工・維持管理のプロセスを研究し、BIMツールの機能を活用して、理想的な建設生産プロセスを作ることで、フロントローディングなどの生産性向上と、次の技術に連携できる情報のデジタル化を進めようとしている。そのイギリスが策定したあるべきBIMのプロセスがISO 19650だ。日本では、BIMツールのカスタマイズとか、新しい施工技術の開発とかは進んでいるが、情報作成の基礎となる情報マネジメントプロセスに着目した事例はあまりない。だからこそ、我々はISO 19650に学ぶ部分も多い。

ISO 19650-1、-2の規格書タイトル 出典:BSI「ISO 19650」
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