3者による話題提供が終わると、伊藤氏(日建設計総合研究所)、松隈氏(九州大学)、田川氏(天神明治通り街づくり協議会)に、ファシリテーターの奥森氏(日建設計)が加わり、いよいよクロストークが始まった。
──今後、天神地区で3D都市モデルの利活用を進めて行く上で、参考になりそうな最新の取り組み
伊藤氏 検討段階にある都市開発系の街作りに関わるユースケースが2つ。1つ目は「都市空間の統合デジタルツインの構築」で、地上と地下のモデルを統合し、ユースケースにつなげていくというモデル寄りのもの。2つ目はソフト寄りで、xRを活用した「市民参加型まちづくり」。市民ワークショップや関係者の合意形成などにソフト系のツールを使用し、3Dモデルを使う。こうした都市開発よりのユースケースが、ようやく出始めてきた。
──技術仕様関係について
伊藤氏 セミナー冒頭で話題になった「地下の埋設物」や「深地下モデル」をどう作るかの技術仕様の検討も進んでおり、2023年度以降は地上/地下のモデル化や活用を主題とするユースケースが増えそう。エンタメ系では、都市のAR空間とメタバースを連携するプラットフォームも、渋谷を舞台に2年がかりで構築中。毛色が違うものでは、走行中の自動車がLOD3レベルの精緻な3D都市モデルを取り込み、自己位置推定の判断に活用する技術もある。こうした新しいユースケースの広がりとモデルの全国展開、そして、モデルの精度向上やPLATEAUの普及啓発のため、アイデア発掘にも取り組んでいる。
──ゲームなど異なる分野での可能性について
松隈氏 前述したランニングゲームや鬼ごっこゲームなど、ちょっとしたものならすぐできそうだし、より真面目なものがよければ、地域に「新しい魅力を作る」ことをまずバーチャルでやってはどうだろうか。リアルでは難しくてもバーチャルで作ったものにリアリティーがあれば、合意形成も得られそう。明治通りなどの3D都市モデルもリアルだし、若い人がみたとき、どんなアイデアが生まれるか期待したい。
──PLATEAUの天神地区街づくり協議会で想定される用途
田川氏 先ほど説明したDX活用例もそうだが、当街づくり協議会がやると目的が限定されるため汎用性がない。だからこそ、国を挙げたPLATEAUのような3D都市モデルのオープンデータがあれば、皆でそれに乗っかる形で効率よくデータを作ったり、もっと別の使い方もできるのでは。
天神では今ビッグバンが進んでいるが、なかでも今後の新たな需要作りが大きな課題になる。となると「都市をいかにPRしていくか?」が重要になるため、ゲームの世界に都市を作って、さまざまな世代の人たちに体感してもらい、「天神の街はこう変わるんだ!」「何か面白そうだな!」と思うきっかけになれば。
──都市活動をバージョンアップしていくうえで、ゲーム産業の重なり合いへの期待
松隈氏 大橋キャンパスを3Dで作ったが、それだけでは並べて比べれば本物の方が良いわけだから「大して面白くないな」と思ってしまう。私たちはゲーム好きなので、キャンパスを舞台にゲームを作ったわけだが、「お化け屋敷」になってしまう。ゲームは面白いが、結局お化け屋敷が好きな人しかやらない。
そのため、必要なのは全く何もない普通の「本物をCG化したもの」と「お化け屋敷の中間地点」みたいなもので、だとしたらそれはどこにあるのだろうかと。すごく日常に近いようで、ちょっとワクワク感があるような状況をデザインできないか。それをバーチャルだけではなく、普通のリアルな世界と連動させられれば、面白く新しいコンテンツやサービスが生まれる。
──「シリアスゲーム」と都市との融合について
松隈氏 九州大学でも行動変容の先生や都市設計の先生が取り組んでいる。難しいのは、カルチャーが異なる所で時間やお金をかけてやれるかどうか?紹介した例でも病院とのコラボはなかなか大変だった。建築や都市設計の人たちと互いにリスペクトしながら時間をかけ、妥協点を見つけていけばうまくいくはず。
──拠点都市開発のデジタル推進と3D都市モデル利活用課題への対応
伊藤氏 Project PLATEAUは、国交省の都市局が所管して進めている。都市計画や街作り以外の分野に「いかに使ってもらうか?」が、都市局側の担当者の課題。その意味で、私たちも都市計画や街作り以外のユースケースを「どう作るか?」に注力している。また、3D都市モデルも1回作って使ってしまうと、使われなくなりがちなので、いかに鮮度を保ったまま更新していくかがポイントとなる。ゲームを通じてマネタイズしたり、3D都市モデルが売れたりするようになれば、民間が入ってモデルも更新されていく。そうした循環ができてくれば、より広がりも見込める。
田川氏 ちょっとした問題提起として、先ごろ稲葉町地下通路が開通したが、掘削工事で不明な埋没インフラ物が大量に見つかった。停電やガス漏れなどのリスクがあるので、作業はほとんど手掘りになった。都市土木でデータを活用できてないため、いまだにこんなことをやっている。いま天神ビッグバンで建替えが始まっているが、「道路下に何があるのか」の情報を共有していかないと、将来また手掘りすることになりかねない。将来の開発コスト削減や工期短縮、インフラ設備の放置防止のためにも、今のうちにできるだけWebデータを共有するスタイルを取り入れていくべきだ。
──データ共有に関してプライバシーやセキュリティの問題
伊藤氏 関係者でデータを共有していく際、関係者やステークホルダーの種類によってデータを出し分けることが不可欠。BIMデータも共有化部分は一般公開するが、関係者だけで限定的に使うのであれば、リッチなデータを付与して共有化する部分のデータ管理が重要になってくる。
──バーチャルとリアルの融合に都市モデルがどう貢献していけるか
松隈氏 バーチャルとリアルが本当に融合した世界が見てみたい。いまリアルの世界で脱出ゲームが流行っているが、1日目はリアル、2日目はバーチャル空間で家からでも参加できるような仕組みにすることもあり得る。明治通りのモデルのように、3D都市モデルの「ビジュアライズ」という点を生かし、リアルなモデルを見せることで、さまざまな人々の発想も刺激できるだろう。
奥森氏 福岡・天神エリアは、DXのベースとなるゲーム産業が集中し、都市開発の進展や産官学の距離感も近く、新しい分野の価値を生み出していくモデル地区に成りえるかもしれない。DXが必須ということは、もう共通認識になっているはずだが、現実の都市空間では、地下空間の問題や情報の制限など、プラットフォーム化にはさまざまな障害があるため、連携していくことで乗り越えていかねばならない。
そのためには理屈だけでなく、“実装化”がポイントとなる。その意味で、福岡天神がそれを実現するロールモデルになる可能性が高いはずだ。
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