木質構造物の高層化という挑戦 Vol.3 アキュラホームの純木造5階建て住宅木の未来と可能性 ―素材・構法の発展と文化―(10)(2/2 ページ)

» 2022年12月09日 10時00分 公開
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一般の木造建築物と比較して1.5〜2倍の木材を使用

 ちなみに、耐火木造建築物では、どうしても構造材は石こうボードなどで木造軸組部のほとんどが被覆されてしまいがちですが、アキュラホーム純木造軸組5階建て住宅では、ファサードを構成している格子組水平力抵抗要素や薄物CLTを用いた水平力抵抗要素、キーテック製の純木質耐火構造部材「KEYLAM耐火」を被覆材として用いた構造柱などで、可能な限り木部の表しを実現しました。

2階の事務室(正面に木格子による水平力抵抗要素)
「KEYLAM耐火」被覆による1時間構造柱

 さらに、2階の床スラブを構成している1階の天井面については、建築基準法上、1時間耐火性能で問題は無いのですが、出火時の影響が最も大きいため、自主的に2時間耐火性能を持たせた防耐火設計としています。

 なお、モデルハウスは、多様な要望を受けることを踏まえ、プラン上、壁などを自由に変えられるように、耐火軸組で木造ドミノのような構成で設計しました。つまり、内部の壁は、なるべく水平力に抵抗する壁とせず、外周と竪穴廻りに集中させる計画としています。

 だが、こういったケースでは、高倍率の耐力要素が必要になるため、今回、3種類の水平力抵抗要素を開発して要素実験も行い、今回の設計に採り入れました。

 3種類ある水平力抵抗要素は、格子組による耐力壁、Jパネル(薄物CLT)を用いた高倍率耐力壁、厚物合板張り耐力壁で、これらには鉛直力を負担させず、水平力のみに対応する水平力抵抗要素として設置しています。格子組による耐力壁とJパネルを活用した高倍率耐力は、意匠上も表しとすることで、屋内側に木を表現しています。

Jパネル(薄物CLT)による水平力抵抗要素(施工時)

 また、2022年9月には兵庫県三木市にある実験施設「Eディフェンス」で、アキュラホーム純木造軸組5階建て住宅と同じ構造の建物を建設して加振実験を行いました。その時の様子はBUILTの記事でも採り上げられています。

 加振実験では、京都大学 生存圏研究所 五十田博教授や生活圏木質構造分野の中川貴文准教授が3次元モデルの加振シミュレーションを行い、安全性を確認した上で、実大試験体の加振試験を実施しました。

「Eディフェンス」での加振試験の様子

 加振試験によって挙動を確かめ、ほぼ構造計算とシミュレーション通りの結果が得られました。具体的には、構造体、開口部、外壁材などで、加振の影響がなく、ほぼ無被害であることが判明し、高い耐震性能が証明されました。現在、木造5階建ての耐震設計基準というものは存在しませんが、この実験で得られたデータが今後の基準として活用されることが期待されています。

 木材使用量に関して当該住宅の木材使用量は、一般の木造建築物と比較して1.5〜2倍で、炭素固定量は約84トンCO2。建築過程で生じるCO2排出量は105.4トンCO2(CO2換算)で、同規模のSRC造で発生するCO2排出量の200トンやS造のCO2排出量の180トンと比べると、約2分の1以下に抑えられています。これからますます建築分野でも個々の物件で、建築前後のCO2収支が着目されていくことでしょう。

 当該物件では、木造は多様な要望やリスクをしっかり想定すれば、それに即した設計を行うことで地震にも火災にも強く、環境に優しい建築物を作れることが実証できたかと思います。この建築物はモデルハウスですので、どなたでも自由に見学可能ですので、耐火木造にご興味ある方は是非足を運んでみてください。

 現在、アキュラ本社ビルも純木造8階建てで現在工事中ですので、こちらもご注目ください。今後ますます都市形大規模木造建築物の竣工例が、全国に増えてくることを期待しています。

著者Profile

鍋野 友哉/Tomoya Nabeno

建築家。一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYA主宰。東京大学 農学部 木質材料学研究室を卒業、同大学院修了。東京大学 客員研究員(2007〜2008)、法政大学 兼任講師(2012〜)、お茶の水女子大学 非常勤講師(2015〜)、自然公園等施設技術指針検討委員(2015〜2018)。これまでにグッドデザイン賞、土木学会デザイン賞、木材活用コンクール 優秀賞などを受賞。

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