清水建設は、地震に対して制振効果を発揮し、高層ビルのレジリエンス向上とコストメリットがある設計を実現する制振システム「BILMUS」を開発した。さらに、実用化第一弾として、東京都港区芝浦一丁目で開発を進める「芝浦プロジェクト」の「S棟」にBILMUSを導入した。
清水建設は、地震に対して制振効果を発揮し、高層ビルのレジリエンス向上とコストメリットがある設計を実現する制振システム「BILMUS」を開発したことを2022年9月22日に発表した。
国内では、1995年に「阪神・淡路大震災」が発生した後、建物の制震構造が普及し、現在も多くのメーカーが制振装置を開発している。しかし、高層ビルで制振構造を達成するためには、多数の制震装置が必要で、手間と費用がかかっている状況だ。
一方、高層ビルでは、使い勝手の関係で、制振装置の設置スペースがコア周囲の柱と梁(はり)フレーム内に限られるため、制振効果に限界がある。そこで、清水建設はBILMUSを開発した。
BILMUSは、高層ビルの上層階と下層階を構造的に独立させ、双方を免震建築に用いる積層ゴムとオイルダンパーで連結する構造形式を採用している。この構造形式により、地震時には、連結部を介し、上層階と下層階が互いの揺れを打ち消す方向に揺動し、ビル自体が制振装置として機能する。
さらに、上層階の重さがビル全体の10〜50%になる位置に連結部を設け、積層ゴムにより上層階の周期を調整することで大きな制振効果をもたらす。この結果、地震時には上層階の揺れ(加速度)が最大で従来の制振構造と比較して半分以下になり、家具と什(じゅう)器の転倒や内外装の損傷が低減され、高層ビルのレジリエンスが向上する。なお、従来タイプの制振装置を設置する台数を減らせるため、意匠設計の自由度も高まる。
BILMUSの連結部には、積層ゴム、オイルダンパー、強風時の耐風ロック機構「ウィンドロック」、連結部の過大変形を防止する安全装置「eクッション」を搭載する。
ウィンドロックは、季節風などの強風時に油圧ジャッキで摩擦板(直径70cセンチ)を押し上げ、上層階の構造体と一体化しているステンレス板に押し付けることで生じる摩擦力によって連結部の水平変形を防止し、連結部を貫通するエレベーターの稼働を維持するだけでなく、強風時でも地震発生時にはロックを瞬時に解除し連結部を機能させる。
なお、風速は最上階に設定している風速計で計測し、地震力は地上階に設置している地震計で測り、ジャッキを制御する。
eクッションは、リサイクル材のゴムチップを接着剤で固めて成型したもので、フランジを除いたサイズは30(幅)×30(奥行き)×7.5(高さ)センチと小さく、上層階の構造体から伸び出た立下り柱(H型鋼)に取り付け、大地震により連結部に一定以上の水平変形が生じようとした際に、eクッションが連結部床に装着した鉄骨梁に衝突し、所定の変形に止める役割を果たす。
ちなみに、連結部の設置コストは、制振効果による建物の構造体や制振ダンパーの数量削減により相殺できる見通しだ。
既に、清水建設は、「芝浦プロジェクト」の一環で、東京都港区芝浦一丁目で開発中の「S棟」にBILMUSを適用している。具体的には、地上170メートルのオフィスとホテルの用途切換位置に連結部を設け、38基の積層ゴム、62台のオイルダンパー、12機のウィンドロック、8台のeクッションを配置する。
加えて、上層階となるホテル部の重さは約3万4200トンで、建物重量の約15%に相当するが、従来の制振構造で設計した当初のプランと比較すると、下層階のオフィス部で優れた制振効果を確保した上で、200台超の制振装置を削減し、1500トン以上の鉄骨数量を減らして、開放的な眺望と有効面積の拡大を達成する見込みだ。
また、上層階のホテル部では地震や強風に直面しても、ラグジュアリークラスのホテルに適した居住性が確保される。
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