大林組は、山岳トンネル工事で鋼製支保工のひずみをワイヤレスで計測するシステム「ハカルーター」を開発した。今後は、ハカルーターを現場適用し、切羽の崩落災害防止を行うとともに、支保工の適合性を速やかに判断し、工期短縮につなげる。
大林組は、山岳トンネル工事で鋼製支保工のひずみをワイヤレスで計測するシステム「ハカルーター」を開発したことを2022年7月19日に発表した。
山岳トンネル工事では、軟弱な地山をアーチ状の鋼製支保工と吹付けコンクリートで支えるが、鋼製支保工の形状や設置間隔は、切羽(きりは)の状態を目視し決定する。
そのため、鋼製支保工が地山に適合せず、大きなひずみが発生する場合もある。解決策として、鋼製支保工のひずみを計測し、応力の測定を行うことで地山との適合性を確認している。
しかし、鋼製支保工のひずみ計測は、切羽直近で配線作業を行うため、岩石落下などのリスクを伴っていた他、従来の目視や有線の計測システムではひずみの増大をリアルタイムで検知できないため、作業員への警告が遅れることがあった。
そこで、大林組は、安全な作業環境を確保するため、ひずみの計測データを無線で送信し、リアルタイムで監視するハカルーターを開発した。ハカルーターは、計測データの「送受信機」、受信データを表示する「計測用タブレットPC」、規定値を超えた場合に警報を発する「警告灯」で構成されている。
具体的には、送信機は、場外で鋼製支保工に取り付けられ、ひずみゲージで測ったデータを無線で送信するため、切羽でのケーブルの配線や防護作業が不要となり、配線作業時の落石による危険性を減らせる。加えて、場外で設置が完了し、鋼製支保工を建て込んだ直後からひずみを測れ、送信機と受信機の距離を最大50メートルまで離せ、計測値を安全に確かめられる。
軟弱な地山を掘削する時など、突発的な鋼製支保工の崩壊が懸念される場合は、ハカルーターを一定の間隔で連続して設置することで、支保工の挙動をリアルタイムで監視可能。
さらに、複数台の計測データは1台の計測用タブレットPCで一元管理され、ひずみあるいは応力が規定値を超えた際に、警告灯からの音と光で作業員に危険を知らせ、鋼製支保工における変形の収束に要する約1カ月間にわたり、バッテリーの交換をせずに継続して測れる。
使用する機材に関して、鋼製の防護材で送信機を覆うことで、発破による爆風や振動、坑内湧水に対して高い耐久性があるだけでなく、配線が不要なため、送信機の設置を場外で行える。そのため、場内で行っていた配線作業が不要となり、作業時間を短縮する。送信機は、繰り返し使え、従来よりもひずみの計測に要する費用を約2割減らせる。
また、過去の計測事例から将来的に発生する応力を予測し、管理基準値と比較することで、支保工の適合性を早期に調べられ、早い段階で支保工の適合性が判断できれば、鋼製支保工の変形が発生する前に対策をとれる。
なお、ハカルーターは、大林組が山岳トンネル工事の生産性向上を目的に開発に取り組む統合システム「OTISM(Obayashi Tunnel Integrated SysteM)」で、「データドリブン」により迅速かつ合理的な意思決定を実現するモジュール「OTISM/MONITORING TM(オーティズム/モニタリング)」の構成技術となる。
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