大林組は山岳トンネル工事での切羽の評価に、AI技術の1つであるディープラーニング(深層学習)の活用を進めている。一部の項目については、9割近い精度で地質学の専門家と同等の評価が行えているという。
大林組は2017年9月12日、山岳トンネルにおける切羽の評価に、AI技術の1つであるディープラーニング(深層学習)の適用を進めていると発表した。
日本の山岳トンネル工事では、吹付けコンクリートとロックボルトを主要な支保工材料として利用し、岩盤自体の変形抵抗力も活用する「NATM(New Austrian Tunneling Method)工法」が一般的だ。利用する支保工の規模については、事前の地質調査に基づいて計画するが、事前調査の結果だけでは限界がある。そこで大林組では、実際に切羽の強度、風化変質、割目間隔、割目状態、走向傾斜、湧水量、劣化度合いの7項目を評価し、その結果に応じて計画を策定していた。
同社では1990年代前半から画像処理などを活用し、こうした切羽の挙動計測作業の省力化や、解析作業の高度化に取り組んできた。しかし、実際の工事現場ではこうした技術を活用しても、地質学の専門家でなければ評価が難しい場合もあり、社内の専門部署による判断が必要になるなど、評価に時間と労力が掛かるという課題が残っていた。
ディープラーニングの活用は、こうした切羽評価をより素早く高精度に行い、支保工をより適切に設置するなど必要な手当てを行うことで、工事の安全性および経済性を向上させることを目的としている。
現在は、7つある切羽の評価項目のうち、風化変質、割目間隔、割目状態の3項目について、70カ所、合計1035枚の切羽の画像と、専門家の評価結果をディープラーニングで学習させた。ディープラーニングの画像識別に利用するモデルには「AlexNet」を採用している。
現時点で、開発したシステムが判断した結果は、専門家が判断した評価結果に対し、風化変質(4分類)で87%、割目間隔(5分類)で69%、割目状態(5分類)で89%の精度で一致しているという。
従来の評価手法では、切羽の画像を上方、左右の3領域に分割して平均的な評価をしていたが、ディープラーニングを活用した評価システムでは、画像を227×227ピクセルごとの領域により細分化し、切羽を個別の領域ごとに評価できるようにしている。そのため、切羽の変状や崩落に対応するための局所的な手当てが行えるメリットもあるという。
大林組では今後、工事現場での現行モデルの試験導入を進め、評価結果の的中率向上に向けた学習データの改良などを進める方針。2017年度内には7つの評価項目を基にした新システムを設計し、その後の実証などを経て、2018年度にはさらに精度を高めた切羽評価システムを完成させる計画だ。
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