なぜ、このような事態を招いたのを推察してみた。そのヒントが、2011年に発行された英国のBIM実施戦略レポートに記載されている。
レポートのAppendix 19の中で、BIM(M)とは何かが示されている。
「BIM(M)とは、プロジェクト全体の情報収集と活用に対する管理されたアプローチである。その中心は、資産の設計、建設、運用に関する全ての構造化情報と表形式の情報を含むコンピュータ生成のモデルである」また、BIM(M)とは、Building Information Modelling & Managementのことを指している。
さらに2012年に発行された、「ISO/TS 12911:2012 Framework for building information modelling (BIM) guidance」では、BIMを2つの意味で定義している。「Building Information Model」と、「Building Information Modelling」である。
Building Information Modelとは、「建物、橋、道路、プラントなど、あらゆる建築物の物理的・機能的特性を共有するためにデジタル表現したもの」であり、Building Information Modellingは、「複数のインプットとアウトプットを調整するために、施設やプロジェクトに関連する情報を管理するプロセス」としている。つまり、英国では、2012年の時点では既に、ツールとしてのBIMと、プロセスとしてのBIMが定義された上で、情報を作成・管理するプロセスとしてBIMに取り組んできたことを意味する。
このようなことから、日本と英国で、BIMが違う意味で解釈され、発展してきたのではないだろうか。英国では、プロセスを構築し、情報を作成・管理そして活用するためのBIMを目標として取り組み、一方、日本では、設計・施工の3次元ツールとして、いかに便利に活用するかを主体に向き合ってきたのである。
実は私自身も、長年BIMに取り組んできたが、当初はRevitなどのBIMソフトをツールとして、いかに実務で便利に活用できるかに注力し、プロセスは後から付いてくるぐらいの安易な気持ちだったように思う。ISO 19650を読み解くようになって初めて、なぜプロセスが重要なのかを思案する過程で、この間違いに気が付くことができた。
BIMをツールとすることを仮に、「日本型BIM」と呼ぼう。日本型BIMは、設計・施工のための便利な3次元ツールであればいい。
だから、2次元CADの図面を後追いで、3次元化した干渉チェック用のモデルであっても、BIMモデルと位置付けられている。情報としての活用を考えていないため、UniclassやomniclassのようなClassificationもあまり必要としない。このような状態では、竣工後の維持管理運用につなげることは難しい。そのため、このモデルでは建設DXの情報基盤にはなり得ない。
海外のようにプロセスを変えようとせず、BIMツールとしての利便性を求めた結果、フロントローディングなどのメリットは発揮できず、BIMソフトのスキルの高い者は、2次元よりも便利で早いという利点は得られるが、大多数の者はスキルが足りず、2次元よりも時間がかかるという本末転倒な結果に終わってしまう。
あるべきプロセスを描き、ツールとしてのBIMソフトの役割を明確にしているのであれば、決められたプロセスで作業することが要求され、そのために必要なスキルを得るのは当たり前のことであるはずだ。
2009年はBIM元年とされたが、既にそれから13年が経過し、BIMツールとしては進化した部分もあるが、業界全体では、普及が思うほど進んでいない状況にあることは否めない。しかし、BIMを単なるツールと考える限り、大きな進歩はなく、海外との格差は開いていくだろう。
BIMを情報基盤として構築し、その先につながる建設DXまでに至るために何を為すべきか、いま一度考える時期に来ている。
伊藤 久晴/Hisaharu Ito
BIMプロセスイノベーション 代表。前職の大和ハウス工業で、BIMの啓発・移行を進め、2021年2月にISO 19650の認証を取得した。2021年3月に同社を退職し、BIMプロセスイノベーションを設立。BIMによるプロセス改革を目指して、BIMについてのコンサル業務を行っている。また、2021年5月からBSIの認定講師として、ISO 19650の教育にも携わる。
近著に「Autodesk Revit公式トレーニングガイド」(2014/日経BP)、「Autodesk Revit公式トレーニングガイド第2版」(共著、2021/日経BP)。
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