日本のBIMが抱える危機構造とは何か?【日本列島BIM改革論:第3回】日本列島BIM改革論〜建設業界の「危機構造」脱却へのシナリオ〜(3)(2/3 ページ)

» 2022年02月11日 10時00分 公開

理想的な建設DXの構造

 Cパターンをベースにして、理想的な「建設DXの構造」を考察してみる。まず、基盤となるのが、ツールとしてのBIMである。ツールとしてのBIMとは、設計を行う際に、AutoCADなどの2次元CADから脱し、完全にRevitなどのBIMソフトを使いこなして、3Dモデルから図面を作るフローが確立てきているかということである。

 次に、プロセスとしてのBIMを構築する必要がある。ツールとしてのBIMは、従来の2次元CADのプロセスではメリットが得られない。ISO 19650で示されている設計・施工の業務全般に対して、BIMを使用する情報マネジメント※2ができなければならない。

 さらに、BIMの情報をDXの情報基盤として連携させる仕組みを考えなくてはならない。そのうえで、建設DXの技術が生きてくる。取り組みの流れとしては、この順番でなくても構わないが、こうした理想の構造を目指して、各段階の整備を進めてゆくことが不可欠なのである。

※2 BIMを使用する情報マネジメントとは、例えば、ISO 19650による「ビルディング情報モデリングを使用する情報マネジメント」のことを指す

理想的な建設DXの構造

 日本の現状では、ツールとしてのBIMは依然として課題は残るものの、徐々にではあるが確立してきている。プロセスとしてのBIMに関しては、これから取り組もうとする段階にあり、情報基盤にまでは考えが及んでいない。一方で建設DXは、日本の多くの企業が多額の投資を行っており、海外と比べてもかなり進んでいるといえるだろう。

日本の建設業界の危機構造

 前回も触れたが、海外では、英国でのBIM成熟度レベルで示すように、「レベル1(BIMツール)」「レベル2(BIMプロセス)」「レベル3(情報基盤と建設DX)」という形で、明確に成長過程を示している。英国では現在、レベル2に既に入っていて、次段階のレベル3も始まっている。

英国でのBIMの成熟度レベル

 しかし、多くの日本企業では、地道にレベルを上げることをせず、レベル3にあたるDXへの期待のみが膨らみ、今の2次元CADをベースにしたプロセスのままで、便利なツールを活用することに走っているようにみえる。これが、BIM情報と連携しないA/BパターンのDXであり、現時点では便利に使えていたとしても、将来性や拡張性、継続性などでつまずくことは想像に難くない。

 なぜ、このような状況になってしまったのかを再考してみよう。要因の1つに、BIMソフトの導入による効果が実感できないことがある。なぜかといえば、BIMソフトの導入が2次元CADと同様に、単にツールの入れ替えだと誤認し、導入をしたけれどもなかなか成果を出せないといった企業が多いからではないか。

 本来、RevitなどのBIMソフトは、導入した翌日から、すぐに活用できるようなものではない。その業務に合わせた初期設定のカスタマイズ(テンプレート)や部品(ファミリ)の準備、プロセスに合わせたモデルと情報の詳細レベル(LOD)、他の部門との連携方法(意匠であれば、構造・設備との連携方法)、作成したモデルの活用方法などをあらかじめ用意しておかねばならない。そして、それをもとにした業務プロセスにより、業務基準を改訂し、それぞれの役割によって必要なスキルを習得するために、社員教育も欠かせない。こういった仕組みで作成されたBIMモデルこそが、“再利用可能な価値のあるモデル”であり、2次元CADの後追いで干渉チェックなどのために、2次元CADで作成した図面をもとに作成された形だけの単なるモデルとは全く異なる。

 こう考えると、BIMというものが、「とても複雑で、実現が難しい」と思われるかもしれない。しかし、仕組みさえ作り、設計作業の一部として定着させてしまうことができれば、難しい作業ではなくなり、作業効率は上がり、価値ある情報が手に入るようになる。

 このように、BIMを設計・施工のツールとして導入を進めた結果、期待した成果を出せずに次第に疲弊してゆき、矛先を変えて、建設DXという新しい概念に飛びついている現状が、日本の建設業界の危機構造ではないか。

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