では、ISO 19650で規定している「設計・施工における情報」は、どのように構成されるべきかを考えてみたい。ここでいう情報とは、BIMツールに関連するものだけを指すのではない。設計・施工の成果物として作成される全ての情報が当てはまる。そのため、プロセス改革とは、BIMツールを使う部分を改革するというものではなく、設計・施工のプロセス、つまり仕事の進め方やツール類そのものを変えようとするものである。
ISO 19650-1の図-1をもとに、私なりの考え方を反映させて下図に示した。設計・施工の情報を、規格・共有技術・情報・ビジネス展開の4階層で表している。
上図で、情報の層が構造化データだけではなく、非構造化データが含まれていることに着目してもらいたい。これは、情報というのが単にBIMツールから作られるものだけではなく、設計・施工・維持管理運用に必要な全情報を網羅していることに他ならない。
構造化データとは、明確に定義された構造によって作成されたデータのことで、プログラムによる自動処理などに対応しているRevitなどのBIMソフトウェアのデータなどを指す。一方、非構造化データとは、明確に定義された構造をもたない不定形なデータであり、コンピュータの自動処理には適さない書類・画像・音声・動画などのデータが対象となる。同様に2次元CADデータも、データベースとの連携ができないので、非構造化データに含まれる。だが、RevitなどのBIMツールによる情報は構造化データのため、UniclassやOmniClassのような建築部位や工法などを体系的に整理した分類コードを採用して、双方をデータベース連携させるべきと理解できる。
情報の層における将来像として、「ビッグデータ」という記述がある。複数の建物による情報が蓄積され、ビッグデータ化されることを明示している。この言葉の裏側には、建設業が目指すデジタルツインやDXなどは、いきなりできるものではなく、BIMの成熟によって構築された基盤の上に、具現化されているというイメージが表現されている。
業務プロセスを、企業を越えて共通化してゆくためには、規格が重要である。共通の規格があることで、情報に価値を持たせられる。規格の層では、現状は社内基準だけで対応しているが、効率的な情報交換による情報活用のためには、ISO 19650を中心とした国際規格の適応が必要となる。ゆくゆくは、新しい時代に適した新たな規格が開発されることは容易に予測される。
このように、BIMの技術を核とした設計・施工の情報を構造化された情報が、情報マネジメントプロセスにより蓄えられ、そこから新しいビジネスモデルを作ることができれば、情報に付加価値がもたらされる。こういった設計・施工の情報の在り方が変わることが新しい時代を創る礎となってゆく。
ISO 19650で定義されているBIMを通して、海外でのBIMに対する認識を説明したが、日本ではどのような状況だろうか?
日本でのBIMは、3次元で設計図・施工図を作成できる便利なツールぐらいとしか考えられていない。従って、情報の構造化や情報マネジメントプロセスへの取り組みは、あまりない。2021年からISO 19650の認証が始まり、やっと情報マネジメントプロセスの重要性に気付く方が、ちらほら現われ始めたというような状態である。このような状況で、BIMを導入している企業の上層部は、まず先にフロントローディングや生産性向上などのメリットの享受を期待してしまう。BIM導入に投資対効果を見込むが、実際にはなかなか目に見える成果は得られない。
実は、2次元CADからBIMツールへの移行は、体質改善に似ている。あるべき形に対応するために体質を変えようとするもので、本来それ自体に大きな成果を期待するものではない。成果が表れるのは、改善された体質で何をするかということにかかっている。例えるなら生活スタイルの変化であろう。例えば、不規則に毎日1〜2回しか食事をとらず、運動不足であった生活習慣を、規則正しい生活スタイルに変え、改善された体質を生かし維持するための新たなライフスタイルを作ってゆくことである。建設業界で置き換えれば、プロセスの改革といえる。つまりBIMツールの導入によって、2次元CADから3次元のBIMツールに変わった「体質」を生かせるように、業務プロセス改革を実現してゆくことである。実現すれば、各段階で非効率なプロセスが解消され、徐々にフロントローディングや生産性向上といった目に見える形で効果が出てくるであろう。
さらに、人は、体質を変え、ライフスタイルを変えることができれば、この新しい体質とライフスタイルに合った新しい仕事に適応したこれまでとは全く異なるワークスタイルを整えるはず。建設業界でいえば、デジタルツインや建設DXにそれが当たり、より大きな成果につながる。逆に言えば、これまでの体質や業務プロセスを変えずに、建設DXなどに取り組んでも、本質的な問題解決や革新的な変化は起こらず、部分的な作用にとどまってしまう。
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