シンガポール大深度下水道トンネル立坑工事に、技研の圧入工法が採用導入事例

技研製作所が製造販売している杭圧入引抜機「サイレントパイラー」による圧入工法が、シンガポールの「大深度下水道トンネルシステム(Deep Tunnel Sewerage System、DTSS)」の立坑工事に採用された。今回の導入を皮切りに、技研製作所では地下空間の活用が進むシンガポールで、ハット形鋼矢板を使用した圧入工法の積極提案をしていくとしている。

» 2021年08月30日 14時00分 公開
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 技研製作所は2021年8月26日、杭圧入引抜機「サイレントパイラー」による圧入工法がシンガポールの「大深度下水道トンネルシステム(Deep Tunnel Sewerage System、DTSS)」で地表と地下を垂直に結ぶ立坑工事に採用されたことを明らかにした。

 今回のプロジェクトでは、圧入機と連動するパイルオーガで杭先端の直下地盤を掘削し、パイルオーガを引き抜きながら隙間を埋めるように杭を圧入する「硬質地盤クリア工法」を用いてハット形鋼矢板を圧入した同国初の工事となる。技研製作所が機械を販売し、グループ企業でシンガポールに本社を置くGiken Seisakusho Asia Pteが指導員を派遣している。

ハット形鋼矢板を計124枚圧入

「大深度下水道トンネルシステム」の立坑工事に採用された「硬質地盤クリア工法+ハット形鋼矢板」 出典:技研製作所

 技研製作所によると、シンガポールでは近年、硬質地盤の工事案件が増加傾向にあるという。硬質地盤への圧入を可能とする硬質地盤クリア工法で使用するハット形鋼矢板は、1枚当たりの幅が900ミリと広いことから施工進捗を早めることが可能で、トータルの鋼材重さを他鋼材と比べて抑えられるためにコスト抑制につながる。こうした理由から、同国では硬質地盤クリア工法でのハット形鋼矢板の圧入に対するニーズが今後も高まると予測されている。

 東京都の3分の1ほどの国土しか持たないシンガポールでは、水資源の確保が大きな課題となっている。DTSSは、国内の排水を地下に張り巡らせた大深度下水道トンネルで回収して輸送するシステム。集められた排水は、沿岸部の処理プラントで浄化され、「NEWater(ニューウオーター)」として再生される。飲料としての水質基準を満たすウオーターは工業用水などでも使われており、水問題の解決に貢献している。

 シンガポール政府は2025年までに、国土全体をカバーする計88キロの大深度下水道トンネルを構築する計画を立てている。シンガポールセントラル州の南西端に位置するクイーンズタウンで進行中の本案件は、同国西部にトンネルを造るフェーズ2の一環として進められている。発注者はシンガポール公益事業庁(Public Utilities Board)、元請け業者は西松建設、施工者はTAIYO ASIA(E&C)。

「大深度下水道トンネルシステム」の工事全体図 出典:Deep Tunnel Sewerage System

 工事概要は、硬質地盤対応の「サイレントパイラーF301-900」でハット形鋼矢板50Hを計124枚圧入し、トンネルボーリングマシンを設置するための立坑を掘るための土留め壁を2カ所(TS/SS工区)に構築。杭長26〜27.5メートルの長尺鋼矢板を硬質地盤に圧入するため、高度な貫入技術が必要とされている。圧入工の工期は、2021年4〜10月。

TS工区の断面図 出典:技研製作所

 今回の採用理由としては、現場に学校が隣接しているうえ、付近に公営住宅が建っていることから、住民生活に影響を与えない工法が必須だった。また、鉄道や道路にも近く、高い安全性も求められていた。

 その点、サイレントパイラーは無振動、無騒音の利点があり、周囲の生活環境に影響を及ぼさない。加えて、機械は施工済みの杭をしっかりとつかんでいるので、原理上、転倒の危険が無い。そのため、施工条件をクリアできる唯一の工法として採用に至った。

 現在、国土の狭いシンガポールでは都市開発で、高速道路や鉄道、下水処理施設などへの地下空間の活用が進められている。そうしたなかで、硬質地盤クリア工法によるハット形鋼矢板の圧入は普及拡大が期待されている。

「硬質地盤クリア工法+ハット形鋼矢板」を採用した圧入工事の現場 出典:技研製作所

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