【新連載】木質材料の変化と多様性:製材からエンジニアードウッドの発展の歴史を振り返る木の未来と可能性 ―素材・構法の発展と文化―(1)(1/3 ページ)

本連載では、一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYAを主宰する一級建築士の鍋野友哉氏が、近年環境に優しいなどの理由で関心を集める木材にスポットライトを当て、国内と世界における木造建築の歴史や最新の木造建築事例、木材を用いた構法などを紹介する。連載第1回となる今回は、多種多様な木質材料の変遷を振り返る。

» 2021年03月05日 10時00分 公開

将来の木質材料や建築の未来と可能性について考察

 京都議定書が1997年12月に京都市の国立京都国際会館で開かれた「第3回気候変動枠組条約締約国会議」で採択され、2005年に発効されました。当時から地球規模での環境問題が注目され、世界的に取り組むべき課題と認識されつつも、まだその時点では、社会的な実行力を伴った大衆的なムーブメントを起こすまでには至りませんでした。

 しかし、この時期から、さまざまな媒体で環境の実態について採り上げられる機会が増えたこともあり、環境問題が世界的に関心を集めました。そして、2015年の国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が定められたことで、環境に優しい木という素材が持つ本来の意味や役割というものに注目が集まり始めました。

 こういった状況を受け、建築を取り巻く環境はいま、木という素材を中心に大きく変わろうとしています。本連載では、この木という素材を通して、日本および世界の文化や建築を眺めることで、これからの木質材料や建築の未来と可能性について考えていきたいと思います。

国産材を活用した建築物の事例・東京大学弥生講堂アネックス セイホクギャラリー
国産材を活用した建築物の事例・岐阜県恵那市に位置するJR「恵那」駅前のバスシェルター

1.製材

 木は、日本の風土においては比較的入手しやすい素材であり、かつ非常に加工性に優れ、扱いやすい素材であったため、紙、道具、建築と小さなものから大きなものまで、さまざまなものの素材としてとても長い間用いられてきました。少なくとも縄文時代以前から建築材料として使用されてきたことが、青森県の内丸山遺跡での調査で分かっています。1300年前に建立された法隆寺をはじめ、この木を用いた構法によって作られた建築物は日本の文化と切っても切り離せない存在といえます。

 このように木を建築材料に用いる場合、山から切り出された丸太を乾燥させて、丸太のまま用いることもあれば、ここから木取りを行って木材を切り出し、製材として使用するケースもありました。また、樹木は、太陽に向かって、つまり重力に逆らって成長するため、縦に長く、軸方向に強い素材になる特性から、主に柱や梁(はり)などの軸材として利用されてきました。そして、長らく木が貴重であった時代が続いたため、少しでも無駄なく“歩留まり”が良い使い方が考案されるなど、使用方法が工夫されてきました。

 木は、その成長過程から、方向によって強度特性が異なる異方性を備えているので、均一な材料ではありません。故(ゆえ)に、丸太から木を切り出す時に、幹の中心との関係(木裏、木表)で反りや曲がりの出方が変わってきます(図1)。

図1 製材について

 これらの反りや曲がりは、木材を乾燥させる過程で避けて通れない自然現象です。そこで、この変化に対してなるべく建築物全体に影響が出ないように、柱の繊維方向に割れを入れ意匠的な表面の損傷を防ぐ背割れ加工を施したり、また変化を見越して安全側※1に用いるなど、さまざまな工夫をして木と付き合ってきました。

※1 安全側:建築物の設計・施工で必要な数値に余裕を持たせること

 また、丸太の中心を通らない部分を切断した時にできる木目「板目(いため)」や丸太の中心付近をカットした時に生じる木目「柾目(まさめ)」といった特徴的な木目が、切り出す位置の違いによって現れます。この木目は、樹種によってある程度似てきますが、産地はもとよりどのような斜面に生えていたかなどの生育条件によって一本一本異なります。非常に個性的な木目も生じることもあり、この木目を楽しむ文化が日本では育まれてきました。

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