高精度の3Dレーザースキャナーが建築の現場を大きく変えつつある。レーザースキャンによって得られる点群データは、現場の状況を忠実に表す。点群データがあれば、現場全体を3Dモデル化することもでき、仕様や設計の変更などに際してもスピーディな対応が可能となる。しかし、そのためには少なからぬコストと労力が必要になる。ジェイコフでは、現場でスキャンした点群データと3DCADによる3Dモデルを融合させ、事前の打ち合わせやプレゼンテーションなどの効率化を実現している。
オートデスクは、2020年11月17〜20日の4日間にわたり、CAD/BIMに関するテクノロジーイベント「Autodesk University 2020」をオンラインで開催した。会期中のセッションのうち、「3DCADと3Dレーザースキャナーの融合による設計の効率化」と題した砂村和彦氏の講演を紹介する。
砂村氏が代表取締役社長を務めるジェイコフは、各種プラントで使用される機器や架台、配線などの設計専門会社だ。講演で砂村氏は、3DCADのメリットや3Dレーザースキャナー活用の他、3Dモデルと点群データを組み合わせた活用、NavisworksやVRを使ったプレゼンテーションなどについて説明した。
ジェイコフは、2014年にAutoCAD Plant 3Dを導入した。また、2017年には3Dレーザースキャナーを導入し、設計や現場調査の効率化、提案力の強化に取り組んでいる。講演では、この3Dスキャナーによる点群データを使い、実務をどのように効率化しているかを解説。また、2019年に導入したVRの活用による設計提案についても触れた。
砂村氏は、3DCADのメリットとして次の5点を挙げる。
ジェイコフの配管関連業務では、設計はもとより図面を使った打ち合わせや確認においても高度な空間認識の能力が欠かせないという。
配管は、縦横のXY軸に加え、Z軸方向にも配置される。このため、経験が乏しい担当者では理解に時間がかかってしまい、認識の相違でミスも起きやすい。この点、配管を立体的に表現できる3DCADでは、配置を直感的に捉えられる利点がある。従来の平面図や断面図では、配置が省かれることの多かった小配管でも3DCADでは完全に表現される。砂村氏は「イメージの共有・確認がしやすくなっている」と評した。
3DCADによって干渉チェックが容易になることもメリットの一つ。3DCADでは、完成した形状をあらゆる方向から確認することができる。これによって、例えば2次元では発見が困難な高さ方向のズレや機器・躯体・ラックなど複数の物体が組み合わさる部分の相互の位置関係が視覚的に分かるようになる。そのため、設計のミスを大幅に減らすことに役立つ。
ジェイコフでは、FAROのレーザースキャナーを使用している。このスキャナーは最大で毎秒97万6000点のデータを取得し、短時間で精度の高い点群データを得られる性能を持つ。
砂村氏は、プラント設計での点群データの活用例を披露する中で、最近の傾向として「古いプラントは図面が残っていないことが少なくない。仮に現存していても古い手書きの図面しかないので、改造工事にあたっては点群データを活用したい」といった要望を多く耳にすると語る。
他にも「過去に何度も改造を行った古いプラントで平面図や断面図をデータ化したい」「遠隔地にある現場を3次元化し、ルートや仕様の変更などにオフィスに居ながらにして対応できるようにしたい」といった要望も多いとした。
現場の状況を3Dレーザースキャナーによって点群データ化すると、その後の業務が効率化される。点群データから3Dモデルを作成すると、データの利用価値も高まる。実際に砂村氏は、点群編集用ソフトInfiPointsでの3Dモデリングの作例を説明した。
多数の配管があるような複雑な現場の場合は、点群データから3DCADソフトで配管をなぞりながらモデル化するのでは、多くの時間と労力がかかってしまう。しかし、InfiPointsであれば、その作業が自動化できる。ジェイコフでは、データの測定状態にもよるが6〜7割程度の自動モデル化に成功している。点群データが薄い箇所やバルブなどでは認識されないことがあるが、それでも業務の効率化に役立っているようだ。
ジェイコフでは、3Dモデル化を既設改造などで一部の配管や機器を変更するケースに用いている。作業手順としては、まず現場の点群データをInfiPointsで自動モデル化し、改造箇所を削除。その後、全てを既設物としてレイヤーに変更し、AutoCAD Plant 3Dを読み込んで設計を行う。砂村氏は、「こうすることで変更のない既設物を描く時間を省略しながら、3Dによるルート設計や干渉チェックを行えるようになる」と話す。
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