デジタル計測の実際については、シュルード設計の安達基朗氏が解説した。今回の調査活動は、大日本帝国時代の海軍需品庫を対象に実施した。しかし、この歴史的建造物を測定する前に、京都女子大学旧E校舎を使って、レーザー測量の実験が行われたという。レーザー測量によるデータの精度を確認する他に、歴史的建造物に対して足場を組まずに測定が可能かなどを検討するためだ。
実験で使われたレーザースキャナーは水平方向360度、垂直方向320度のレーザー照射能力を備える。レーザーの照射は300メートル先まで可能だが、実験では30メートルにした。
実験で取得した点群データを現状図などと比較したところ、点群データが原寸と同じ精度で得られたことが確認されたという。
点群データには、正確な寸法がしっかりと測定できる長所がある。しかし、物体を点の集合体で表現するので、薄い部分が見え難くなるという欠点を持つ。そこで、見やすさと現場の風合い・素材感を改善すべく、いくつかの試行錯誤が行われた。
まず試したのは、データのBIMモデル化だ。だが、表現がデジタルチェックになり、現場の風合いを再現するまでには至らなかったようだ。そこで、風合いの再現の前に点群だけでどのような表現することが可能かを試行した。安達氏は、点群データの“透ける”特徴を逆に利用し、外と中が一度に見られる表現方法が構築できたと話す。
続いて、風合いの再現を目指して写真と合成した。用いられた方式はSfM(Structure from motion:多視点ステレオ写真測量)と呼ばれる手法で、多くの写真を撮影し、SfM専用のソフトウェアで3次元モデル化する。
この方式では、写真撮影時のオーバーラップの度合いと、各写真に特徴点(タイポイント)を多く含ませることが重要になる。タイポイントは、各写真を合成する際の基準点となるからだ。この点、今回はレンガ倉庫ということもあり、タイポイントの抽出は容易だったという。
この後、SfMの3次元モデルと点群データの合成を行う。安達氏は、素材の風合いを表現したSfMと寸法を正確に再現した点群データを合わせることで、風合いと寸法が正確な3Dデータを設計者に提供できるようになったと述べる。
合成データは、BIMモデルとの連携で仮想空間への展開も可能だ。今回の実験ではアンリアルエンジンでデータの軽量化を行い、Autodeskに買収されたAliasがオープンソースとして開発した中間ファイル形式の「FBX」データをVRヘッドセット「Lenovo Mirage Solo」へ送っている。
オープンフォーマットのFBXを介してVR化したことで、現場に足を運びにくい人でも手軽に建物の状態が見られるようになった。さらに、実際に目視で確認を行うには足場が必要な天井の梁(はり)、肉眼は見られない2階のトラス構造の内側なども確認できる利点が生まれた。
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