環境に優しい“アワビ”の陸上養殖技術を大林組が開発、事業化も視野に産業動向

大林組は、排水が少なく、フンや残餌を含む養殖排水を分解する上養殖技術」を開発した。新技術は、微生物の力で、水槽の飼育水に含まれる有機物や窒素化合物などを分解除去することで清浄な水質を常に保てる。同社では将来的に、アワビ中間育成の事業化も視野に入れている。

» 2021年01月30日 11時00分 公開
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 大林組は2020年12月、海水を浄化しながら再利用することで、排水による海への環境負荷をかけることなく、アワビを育成できる循環式陸上養殖技術を開発したことを明らかにした。

海水を浄化しながら安全・安心なアワビ育成を実現

 昨今、水産物の安定供給を実現する養殖技術が注目される一方で、フンや残餌を含む養殖排水は、海への環境負荷が問題になり、海の持続的な利用の観点から飼育水を浄化しながら再利用する循環式陸上養殖への関心が高まっている。

 大林組には、水辺での工事で生物への影響を抑えるため、水域環境の保全に関する多数の技術やノウハウが保有されている。そこで今般、知見を活用し、環境負荷が少なく安全・安心な食を提供することを目指し、排水が少ない循環式陸上養殖技術を開発した。

実証を通じて育成したアワビ 出典:大林組

 循環式陸上養殖技術は、フンや残餌により飼育水に蓄積する有機物や窒素化合物は、微生物を利用して分解・除去することで、安定して清浄な水質を保つ。さらに、アワビの育成に関しては、適切な水質測定に基づく、ミネラル補給や清掃などの調整ノウハウを会得し、安定した成長を促すことが可能となった。

 ろ過した海水を常時供給する従来のかけ流し方式では、1時間に1〜2回の水交換が行われていたが、新技術では、飼育水に人工海水を利用し、新たな水の供給は1日に水槽の2%程度で済むため、同じサイズのかけ流し方式と比べると給排水量が1200〜2400分の1で済む。

 また、屋内で飼育できることも特長で、常に清浄な水質で育成することができるため、悪天候や海の水質汚濁など環境変化に左右されることなく、安全・安心な水産物を安定して供給する。

循環式陸上養殖技術の実証装置 出典:大林組

 循環式陸上養殖技術の実証実験は、清浄な海水を好み水質など成育環境を適切に管理することが求められ、かつ近年漁獲量の低下によって養殖への期待が高まっているアワビを対象に、東京都清瀬市の大林組技術研究所で実証装置を設置し、1年間検証を重ねた。その結果、アワビを育成するのに適切な温度管理や水槽の衛生管理手法も確立したことで、殻長が3〜4センチのアワビの稚貝を、約1年で平均7センチ程度、最大で8.5センチに成長させたという。

 大林組は、今後、循環式陸上養殖技術の信頼性をさらに高め、将来的にアワビの中間育成の事業化を視野に入れるとともに、地域の新しい魅力を創出したい協力先との関係を構築し、技術を普及させることで、海の豊かさを守ることにつなげること目指すとしている。

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