減価償却を早期償却することの重要性は、税理士で租税訴訟学会 副会長を務めている山本守之氏の『法人税の理論と実務』(中央経済社、2020年、p259)には、フラットパネルディスプレイを例示し、明確に記述されている。シャープが液晶ディスプレイで世界のトップに君臨したのもつかの間、あっという間に転落した原因は、わが国の法定耐用年数の期間が問題だと指摘している。
「フラットパネル用フィルムは液晶・プラズマテレビ用で、この分野は日本、米国、韓国が競合しており、耐用年数が米国5年、韓国4年に比べて日本は10年となっていたため」と述べている。さらに「これらの機械の効用持続期間は10年かもしれないが、投資の対する回収期間と考えれば、企業は5年以下の期間の中で経営上の設計をしなければ、他企業との競争に打ち勝つことでできない」と明記している。
この指摘は建物においても同様のことだろう。持続可能な社会、SDGs、循環型社会形成が叫ばれている今日に、わが国のように50年で償却していては、大規模修繕工事が行えないのである。それは、長期間にわたり償却していては、減価償却費の累計額が少なくなり、内部留保が小さくなってしまうため、20年ごとに実施する大規模修繕工事の資金確保ができなくなってしまうからだ。
だからこそ、早期に償却可能な価格構造メソッドが必要不可欠なのである。次回は、価格構造メソッドの根幹である建物と建物附属設備との価格設定において50:50にするには、どの部分を振り分けるかについて言及する。
土屋 清人/Kiyoto Tsuchiya
千葉商科大学 商経学部 専任講師。千葉商科大学大学院 商学研究科 兼担。千葉商科大学会計大学院 兼担。博士(政策研究)。
租税訴訟で納税者の権利を守ることを目的とした、日弁連や東京三会らによって構成される租税訴訟学会では、常任理事を務める。これまでに「企業会計」「税務弘報」といった論文を多数作成しており、「建物の架空資産と工事内訳書との関連性」という論文では日本経営管理協会 協会賞を受賞。
主な著書は、「持続可能な建物価格戦略」(2020/中央経済社)、「建物の一部除却会計論」(2015/中央経済社)、「地震リスク対策 建物の耐震改修・除却法」(2009/共著・中央経済社)など。
★連載バックナンバー:
『建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法』
■第4回:「なぜ減価償却の減少が、大修繕工事の資金準備を妨げるのか?」
■第3回:「大規模修繕工事が建物の迅速な減価償却を難しくする理由」
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