企業にとっての財産・資源は何であろうか。人であり、金であり、情報である。そしてもう一つ大事なものは「もの(ファシリティ)」である。一般に、人・金・情報・もの(ファシリティ)の4つが経営資源といわれる。これらをいかにマネジメントするかが、経営者の手腕である。しかし、ファシリティについては、経営資源として十分に活用されていないのが現実である。それゆえ不利益と損失を被っている。これら4つの経営資源をマネジメントすること、すなわち人は人事、金は財務、情報は情報システム、ファシリティはFMとしてマネジメントし、「第4の経営基盤」とすることが必要とされている。ある目標に向かって、これらをいかにマネジメントするかで、企業の成否は決まる。FMは日本企業が見過ごしてきた経営基盤といえる。
最初に少し昔話をしよう。1987年に当協会、日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)は任意団体として設立された。その設立にあたって国の窓口は、建設省 住宅局 建築指導課だった。
協会に出向などで集められたメンバーは、大地主系(日本電信電話、新日本製鐵、東京電力、三菱地所など)とゼネコン系(大林組、鹿島建設、清水建設、大成建設、竹中工務店など)である。つまり建築の発注者と受注者であり、言い方をかえれば、十分資産を生かしていない大地主と、つくることしか考えていないゼネコンで、日本の未来のFMを考えろということだった。
そして、「FM資格制度の設立」と「FM教科書の作成」、そして「母体となる協会の法人化」という3つのミッションを与えられた。簡単にできるものかと思っていたが、実に十年の歳月を要した。当時、バブルで浮かれていた日本経済の中で、未来を見据えて、FMの重要性を説き、それを日本でも根付かせようとしたのである。その後、JFMAは、1997年に社団法人となり、FMの教科書も作成し、資格試験も開始して、2012年からは公益社団法人として活動している。いま、有資格者は1万5000人を超える。
FMはその範囲が広いので、自分の専門分野から見るとどうしても局所的になる。不動産関係者は不動産としての収益を、建築の関係者は建築をつくることを、家具メーカーはいかに自社の家具を販売するかを、メンテナンス業者は与えられた物件の運営維持をいかに効率的にやって儲(もう)けるかなどなど。専門家は、自分の専門分野から見るが、利用者は専門分野の境界など関係なく見る。
FMは本来、利用者の立場で考えるべきものである。建築関係者から見れば発注者の立場の考え方である。業界の境界など関係がない。ファシリティマネジャーは、利用者の立場で全体像を捉える。建築関係者もFMを勉強してみると、新たに視界が広がり、自分の位置付けも理解できるので、ぜひFMを学んでほしい(図1)。
FMを通して、人々を、企業(組織)を、社会・地球を幸福(ハピネス)に導くことが、FMの目的(ミッション)である(図2)。FMを通して、企業(組織)だけでなく、そこを利用する人、周辺社会や地球環境まで含めて幸福にすることである。これは、近年提唱されている「ESG(Environment Social Governance:環境・社会・企業統治)」や「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」にも通じる。
ファシリティとは、土地・建物から設備、インテリア、情報インフラ、家具・什器、アート・グリーン、サインなど、そしてこれらを含む環境を指す。さらに、ホスピタリティなどソフト面や、ハード面ではインフラなども含めて考える場合もある。これらをいかにマネジメントするかがFMである。
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