インタビュー
» 2020年09月07日 06時33分 公開

経営トップに聞く:【独占取材】日立ビルシステム 光冨新社長「コロナ禍は戦略を見直す好機。ITの付加価値で差別化を」 (2/3)

[石原忍,BUILT]

昇降機需要の半数以上を占める中国で、“トップシェア”獲得

光冨社長 グローバルトレンドとしては、昇降機の需要そのものは引き続き堅調に推移している。特筆すべきこととして、2019年度に、世界における新設需要の50%以上を占める巨大なマーケットの中国で、個社別で“トップシェア”を握れたことは、一つのマイルストーンに到達したトピックスと言える。中国の2020年度は、新型コロナウイルスによる業績悪化が懸念されていたが、ロックダウン(都市封鎖)解除後は、完全に復調している。

 一方で、シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシア、インドなど、今までも投資を行ってきたアジア諸国は、まだビルシステム事業の柱になるまでには育てられていない。だが、2018〜2021年度で年平均4.4%の新設需要の拡大を見込んでいるため、投資先を見極めつつストラテジー(戦略)を見直して、成長軌道に乗せていきたい。

 国内に目を向けると、数年前から五輪特需などもあり、新設需要はまずまず安定しており、リニューアルが将来的に増えていくことも確実視されている。また、新型コロナウイルス感染症拡大をトリガーにして、サーマルカメラを用いたビル内の「発熱者検知システム」※1や対面業務の代替となるコミュニケーションロボット「EMIEW」など、ITやIoTをビル設備と組み合わせて提案することで、市場をさらに開拓していく余地は十分にある。実際に、デベロッパーやゼネコンとの長い付き合いで、有難いことに一業者ではなくパートナーとして協力しながら、IoTやロボットなどの新規サービスの実証を既に始めている。

 一例として、海外では日本よりも導入が進んでいるセキュリティゲートと連動して入館者が乗車するエレベーターの号機を割り当てる“行先階予約システム”も、感染リスクを低減するため建物内での非接触の移動が当たり前になることと併せて、国内でもタッチレスソリューションとして新たな需要が掘り起こされるのではないか。

サーマルカメラによる発熱者検知システム。モニター画面のイメージ

※1 「建物内の非接触での移動・生活を実現するタッチレスソリューションとしてサーマルカメラによる発熱者検知システムおよび運用支援ソリューションを販売開始」日立製作所/日立ビルシステム 2020年6月30日付ニュースリリース

――日立ビルシステムの強みとは何か

光冨社長 日立グループ全体で目指すところは、単に自社の売上拡大だけではなく、社会価値、環境価値、経済価値、それぞれの向上に貢献することで、主に「モビリティ」「ライフ」「インダストリー」「エネルギー」「IT」の5つの事業を展開している。

 このうちモビリティの中に、鉄道とビルシステムの事業が位置しており、鉄道事業のグローバル化を自分とともに推進し、日立製作所初の外国人副社長に抜擢(ばってき)されたアリステア・ドーマーが2019年から両事業を統括している。鉄道とビルシステムには、駅や駅ビルなどシナジーを共有する部分が実は多い。1人の副社長がこれを最大化すべく、互いの事業部で人材交流や情報交換などを積極的に行っている。

 5つの事業の基盤には、「Lumada(ルマーダ)」という日立のIT/IoTの共通プラットフォームとソリューション群がある。日立独自の強みとしては、EV/ESのプロダクト、そして制御技術や保守サービスといったOT(Operational Technology)の蓄積があることであり、これらにLumadaをベースしたITやIoTを組み合わせることで、他社にはない付加価値を生み出すことができる。

日立が目標とする社会イノベーション事業を通じた成長

 例えば、東京・亀有にある当社の「亀有総合センター」で常時、遠隔監視している“コネクテッド”された昇降機をはじめとするビル設備は、国内だけで18万台にも上る。既にネットワーク化している膨大な設備をどのように利活用するかが、これから新規事業を検討する上での切り口になるだろう。そういう意味でも、ビルシステム事業はまさに、IT、OTを掛け合わせた付加価値を生み出せる可能性を秘めている。

――COVID-19がもたらした市場変化

光冨社長 国内でも感染拡大が続く、新型コロナウイルスの影響については、顧客である宿泊業などが深刻な打撃を受け、業界地図や都市構造も大きく変わるかもしれない。だが、住むところ、働く場所はどんなことがあっても必要とされるので、我々の仕事が無くなるということはあり得ない。

 いずれは収束に向かうだろうが、この数カ月の間、誰もがWork from Home(在宅勤務)を強制的に強いられたことには着目しなければならない。この経験が何をもたらすかが大事で、在宅勤務が常態化したときの住まいの在り方、働く場所の選択肢が広がることに伴う、サテライトオフィスや郊外型のワークプレースといったニューノーマル時代の要請に、日立のソリューションで迅速にどう応えていくかが私たちに課せられた命題だろう。

――中期経営計画の最終2021年度に向けて

光冨社長 2020年度の売上収益は当初6100億円としていたが、新型コロナウイルスの影響で減収を見込まざるを得ない。ただし、具体的にどのように表れるかは不透明な部分が多い。日本市場を若干、悲観視する要素はあるが、先にも述べたが、好材料として中国は市場が正常化したことで、第1四半期は2019年度を上回り、通期の見通しも上方修正した。ビルシステム事業の成長ドライバーと位置付けており、昇降機の新設受注No.1を持続させるとともに、高層ビルの新築以外にも、地方政府レベルで補助金の対象となる後付けで設置する昇降機や設備更新のニーズが増大することが予測されるため、商品ラインアップを拡充していく。同時にIT先進国でもあることから、IT/IoTを備えた“スマートビル”の研究なども現地で先行して進める予定だ。

日立のビルシステム事業の中期経営計画(2019〜2021年度)

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