素材を生かした「メイド・イン・ローカル」のデザインメソッドが世界へ。建築家・芦沢啓治氏に聞くArchitecture & Interior Design alternatives―Vol.1(3/5 ページ)

» 2019年11月14日 06時00分 公開
[石原忍BUILT]

グッドデザイン賞の式典でも採用されているスツール

 「東日本大震災の後、ボランティアで、被災地の仮設住宅に住む人々とともに、日常生活で必要なベンチやイスを作っていくなかで、放っておいたら廃れていく街に、クリエイティブを残したいという気持ちが芽生えた。そこでデザインを軸にした家具のローカルブランドを立ち上げることで、工房が起点となって、いち地方都市が活性化されることを期待した」と、芦沢氏は工房のストーリーを振り返る。

 そのために、被災者自らがDIY(Do It Yourself)で手を動かす以外に、「石巻ブランド」にデザインの付加価値を加え、国内外で販売チャンネルを増やし、現地製造した家具を販売させて地方が自立するための「メイド・イン・ローカル」を確立させた。

 「復興でボランティアとしてのフェーズはもちろん続いていくのだが、(震災の記憶とともに)石巻の活動が縮小していくのではなく、ビジネスに変えて発展させることが重要だった。2014年には株式会社とし、震災以降に増えた工房のファンをみて、海外でも家具作りのワークショップを開催。その結果、自然とパートナーが集まった。今はデザインのプロポーションを守る=材料の正直な扱い方を条件に、現地の素材を使った石巻ブランドでの販売を許可している」(芦沢氏)。

「ISHINOMAKI STOOL」  画像提供:芦沢啓治建築設計事務所

 現在では、日本に留まらず、デザインのロイヤリティー契約を結び、ロンドン、ベルリン、シンガポールでも展開。海外進出の足掛かりとなった英国は、2014年にパリで開かれた「メゾン・エ・オブジェ」で、芦沢氏がロンドンを拠点とするハンドメイド家具のセレクトショップ「SCP」の創設者・Sheridan Coakley氏と意気投合したことが契機となり、パートナーシップを締結。当初は、販売のみだったが、英国内での製品需要が高まるにつれ、2017年からノーフォークの工場でウェスタンレッドシダー(カナダ杉)を使用して現地生産を開始した。

 また、ドイツでは、2018年に建築家、エンジニア、大工が所属する「HLZFR」に、トラフ建築事務所を介し、EUの市場に向けて「AA STOOL series」をベルリンで製造・販売することを打診。現在では地元産のスプルース材とダグラスファー材を使って、HLZFR自身が制作に携わっている。この協業によって、販売チャンネルが増えただけではなく、ベルリンのクリエイターコミュニティとの接触も生まれ、次なる展開としては、彼らに技能を教えることで、地域の社会貢献にもつなげることも目標としている。

 2019年4月には、フィリピンの写真家Jar Concengco氏と夫人のKay氏が、メイド・イン・ローカルの構想に共感したことで、マニラでも、チークやラーチの木材を用いた製品が作られており、石巻工房の販売網はグローバルで広がりをみせる。

重ねると台にもなるシンプルな構造だが他には無いデザイン性を失っていない「AA STOOL series」を前に (Photo by Takuya Murata)

 石巻工房で制作する際は、奥羽山脈に連なる栗駒山と、雨量が多く屋外での使用にも耐える屋久島の杉を使う。石巻工房自体も、2012年度のグッドデザイン賞(BEST100、復興デザイン賞)に選ばれたが、巷にありふれたレンタル品には無いアイデアとデザインが評価され、賞の式典でも、台座に工房作の「AA STOOL series」が使われている。

 「これまでに、グッドデザイン賞のデザイナーが変わっても、3年間にわたり採用され続けている。家具というのは、ほぼ構造で成り立っている。そのため、既成の材料とどう格闘するかの挑戦であり、時代が変化しても生き残る優れたデザインを簡単に作れるメソッド(構造的な組み合わせ)があれば、DIYでもワールドワイドに拡大できる可能性がある。それが家具工房を生き残らせること、さらにはDIYで地方の街を再生することももたらされるはずだ」(芦沢氏)。

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