素材への探求について芦沢氏は、「例えば日本の一般的なマンションやオフィスビルの内装は、印刷された化粧シートを壁に貼っているだけで、いわば塩ビラッピングハウスのようなものが少なくない。分譲マンションや建て売り住宅は、売ることが先行して、設計図の品番を変えるだけで、パッケージ化した商品になってしまっているのが実情だろう」と現状の問題点を指摘する。
だが、「小石川周辺にも残る昔の日本家屋をみると、安普請なのに、無垢の木材など厳選した材料を使っている。長い歴史の中で、養われてきた技術やノウハウが失われてしまっているように感じられる。(建材や施工の)品質が向上しても、“住空間は貧しいままだ”という思いがあった。根底には、材料そのものに触れる機会が無くなっていることがあるのではないだろうか」と話す。
ここ数年、インバウンドを受けてかオーダーが増えてきているという意匠性の高いホテルでは、内装材を何にするかを素材の中から選び抜き、壁はあえてペンキで塗る。その場合、材料費や塗装前の養生などで、工期やコストが必然的に上がってしまうが、木目調などのシートで壁面を覆ってしまうのとは違い、素材本来の良さが表れるのだという。「正直なデザインをモットーとしているが、それは機能的であること、長く使えること、美しいたたずまいがあることを意味する」(芦沢氏)。
素材を追求した最たる例が、地域に根付くプロジェクトを目指し、宮城県石巻市沿岸部の商店街に、ものづくりの拠点として創設した石巻工房。震災で傷ついた街に、芦沢氏をはじめとするデザイナー有志が補修道具や木材を提供し、復旧・復興のために、誰もが自由に使える公共的な施設として始まった。
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