素材を生かした「メイド・イン・ローカル」のデザインメソッドが世界へ。建築家・芦沢啓治氏に聞くArchitecture & Interior Design alternatives―Vol.1(1/5 ページ)

一貫して素材に対し「正直なデザイン」を心掛け、他に2つと無い特徴的な作品を次々と世に送り出している建築家・芦沢啓治氏――。木や鉄、石の持つ表現力をそのまま生かすため、マテリアルと真正面に向き合い、まさに対話することで作品を生み出している。3.11の被災地に設立した家具ブランド「石巻工房」は、メイド・イン・ローカルを掲げ、マテリアルに向き合う個性的なデザインは守りつつも、EUやアジアでもパートナーを拡大させている。

» 2019年11月14日 06時00分 公開
[石原忍BUILT]

 メッセフランクフルト ジャパンと日本家具産業振興会が主催するインテリア総合国際見本市「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング」が、2019年11月20日に東京ビッグサイトで開幕する。

 11月22日までの会期中には、リノベーションやインテリアのために素材そのものの魅力を伝える毎回恒例のテーマゾーン「CREATIVE RESOURCE」内で、今回は特別に「アップサイクルって何?」をテーマにしたブースも展開される。アップサイクルはここ数年、デザイン感度の高い海外のモノづくりの現場で広まりつつある概念で、これまでの不要な製品を再利用する「リサイクル」とは異なり、より高い次元や価値のあるモノへと生まれ変わらせる。

 特別展では、CREATIVE RESOURCEで約6年間にわたりディレクターを務めている芦沢啓治建築設計事務所の芦沢啓治氏が監修する。まだ、国内では限定的にしか普及していないアップサイクルを再考するきっかけとなるべく、建築家やデザイナーが多面的なアプローチから試作した作品群を出品する。

インテリア国際見本市・企画展ディレクターの建築家・芦沢啓治氏

 ディレクターの芦沢氏は、ハイエンドの注文住宅やオフィス、商業店舗、ホテルといった建築設計を軸に、パナソニック ホームズとの建築プロジェクト、カリモクやIKEAといったブランド家具とのコラボレートなど、家具やインテリアなどの分野でも活躍。近年は東日本大震災の被災地・石巻で主宰する家具製作所「石巻工房」が国際的にも注目され、石巻発の家具がGoogleやAmazon、WeWorkのオフィスに採用されるなど、素材(マテリアル)にこだわった「メイド・イン・ローカル」のファニチャーが国内外で注目を集めている。

 フランスの建築家ジャン・プルヴェの「建築家のオフィスが、部材の製造工場以外にあることは考えられない」を具現化させたという、東京・小石川にある芦沢氏の設計事務所で、建築/家具に込める思いや特別展示の意図を聞いた。





芦沢 啓治 / Keiji Ashizawa 1973年生まれ。1996年に横浜国立大学 建築学科 卒業後、建築設計事務所architecture WORKSHOPでキャリアをスタートさせ、super robotでの2年間にわたる家具制作を経て、2005年に芦沢啓治建築設計事務所を設立。現在までに、カリモク、IKEAなどとの協業やパナソニック ホームズとのパイロット建築プロジェクトへの参画の他、オーストラリアのPeter Stutchbury Architectureとの協働によるWall Houseが「AIA’s 2010 National Architecture Awards」を受賞するなど、建築/リノベーション/家具/照明などジャンルを問わず活躍している。     (Photo by Takuya Murata)

 芦沢氏は、1996年に大学の建築学科を卒業後、architecture WORKSHOPで建築家としての一歩を踏み出した。しかし、建築設計の仕事は順調ではなく、受注件数が少なかった苦境の或る一時期、2年間ほど設計から離れ、同世代が集う金物制作の工房「super robot」に参加した。super robotでは、もともと扱うことの多かった“鉄”をメインに、オーダーメイド家具の制作過程で、素材の扱い方を試行錯誤し、今に至る意匠設計や家具デザインのベースとなる経験を得た。

 その後、2005年には独立し、法人化した2006年には、東京・小石川に借りた事務所をリノベーションして、ここを拠点にスタッフ8人と、建築から、リノベーション提案、家具の制作やプロダクトまで、幅広い設計案件を日夜、手掛けている。生み出された作品をみると、木の現しをふんだんに用いた別荘や鉄の硬質な質感を生かした窓サッシ、樟の一枚板を活かしたダイニングテーブル、ニスを塗らず木のぬくもりが伝わるスツールなど、素材が持つ表現力をどう生かすかに、こだわりぬいたモノづくりへの真摯な姿勢がうかがえる。

「HOUSE S」 (Architect:芦沢啓治建築設計事務所、Project architect:芦沢啓治/本条理恵、Structural engineer:ASA 鈴木啓、施工:松本コーポレーション、Photo:Daici Ano) 画像提供:芦沢啓治建築設計事務所
「ARK HOUSE」 (Architect:芦沢啓治建築設計事務所、Project architect:芦沢啓治/本條理恵、Structural engineer:ASA 鈴木啓、施工:松本コーポレーション、Photo:Daici Ano) 画像提供:芦沢啓治建築設計事務所
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