清水建設は、GNSS測位法とAR技術を応用し、実際の風景に埋設物の図面を重ねて投影する「地中埋設物可視化システム」の開発に成功した。現場にタブレット端末を持ち込み、システムを立ち上げるだけで、現在地の地中に埋設されている構造物が図面として表示される。図面リストの中から必要なデータをタップすれば、タブレットのカメラで映した実際の風景に、埋設物がオーバーラップして見える仕組み。
国土交通省 関東地方整備局は2018年11月21〜22日、“未来の建設技術”をテーマとした「平成30年度 建設技術フォーラム」をさいたま新都心合同庁舎1号館で開催した。本稿では、清水建設によるGNSS(Global Navigation Satellite System)を活用したAR技術「地下埋没物可視化システム」の技術発表を取り上げる。
清水建設が「地下埋没物可視化システム」を開発した背景には、都市の近代化や人口集中によって地下埋設物が複雑化する中、工事着手前にその状態を適切に把握する重要性が高まっていることがある。近年は、国交省が掲げる“i-Construction”の推進で、建設現場の生産性向上が進められているものの、埋設物の確認作業は紙ベースの図面を現場に持ち込み1か所ずつチェックするなど、いまだにアナログな手法が取られているのが実情。清水建設では、このような現状を打開すべく、AR技術を活用することで、地下埋設物を確認する作業の正確性や効率性の向上を目的に、地下埋没物可視化システムを開発した。
ARとは拡張現実感の略で、実際の風景や地形に情報を与える技術。今回開発したシステムは、タブレット端末のカメラで映している風景画像に、地下埋設物の図面を重ねて投影することで、“埋設物の可視化”を実現した。その特徴は、「操作者の正確な位置の把握」「簡易な操作性や汎用性の実現」「埋設図面の呼出し・表示」「風景への埋設物の投影」の4点がポイントとなる。
開発にあたってはまず、操作者の正確な位置情報の特定に、GNSS位置検知システムを用いた。GNSS測位法には、さまざまな手法があるが、“単独測位”では10m(メートル)程度の誤差が生じてしまう。そこでその上の“相対測位”から一段階、精度の上がる“干渉測位”を採用し、中でも即時性が高く、位置の誤差も数cm(センチ)程度に抑えることのできる「リアルタイムキネマティック法」(RTK法)を最終的に選択した。
RTK法の標準的な構成は、あらかじめ位置を固定した「基準局」と、タブレット端末の操作者にあたる「移動局」の2つにアンテナと受信機を設置し、相互にデータを交わすことで精度を上げるシステム。
衛星からのデータを両局が受け取った後、そのデータをインターネット上のクラウドサーバに飛ばす。そこで2つのデータからRTKの測位計算を行い、正しい測位を移動局側に戻すことで、正確な位置情報を把握する。
安定した測位を得るためには、一般的に8機以上の衛星が必要とされる。2017年9月時点でも常時17〜23機の衛星を確認できるなど、現在では日本の上空には多くの衛星が周回しており、その数は今後も増えることが予想され、さらなる安定度の向上が見込める。
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