建機の遠隔操作を“5G”で効率化、大林組らが実証に成功情報化施工(2/2 ページ)

» 2018年02月19日 06時00分 公開
[松本貴志BUILT]
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遠隔制御室を常設し全国の現場で建機を遠隔運用することも

古谷弘氏

 大林組技術本部技術研究所上級主席技師の古谷弘氏は、建機遠隔操作のニーズとして業界の人材不足対策と災害時など危険現場での利用を挙げる。これまで、大林組でも無線LANを利用した建機遠隔操作に関する開発を進めてきたが「人が実際に建機に搭乗する場合と比べて、施工効率が60%程度に低下してしまう。また、遠隔操作自体に熟練工が必要」(古谷氏)という。

 その理由として、遠隔操作を行うオペレーターは施工対象物と建機(本実証では油圧ショベルのアタッチメント)の距離感覚がつかみにくい、操作から実際の建機動作に遅延がある・実機にあるペダルやレバーなど操作系統の“遊び”が操作感覚に重要だが遠隔操作器で再現しにくいなど、実機と操作感覚が異なるといった点が挙げられるという。

 よって、大林組の建機遠隔操作への取り組みは、施工効率向上のためにオペレーターへ距離感覚を提供すること、操作に対する動作の遅延を可能な限り削減することを目標として開発してきたという。

 建機遠隔操作では建機側から、複数台のカメラによる映像と遠隔操作システムのデータを大量に送信することより、無線性能は下り側速度よりも上り側速度が重要となる。

 従来モバイルネットワーク(LTEや4K)では上り側速度が不足するため、現在同社で利用されているシステムでは独自の無線LANシステムによって通信を行う。しかし、無線LANのため、遠隔操作室は現場から2km以内と近場に設置する必要があること、さらにオペレーターの操作から実際の建機動作(End to End)で1秒以上の遅延が発生することが課題だったという。

従来(無線LAN)方法と5G利用方法の比較(クリックで拡大)

 そこで今回の5Gを活用する実証では、4Kカメラ2台(3D映像用の車載2台)と2Kカメラ3台(全天球撮影用の車載1台と現場俯瞰用の2台)と遠隔操作システムのデータを送信し、End to Endの遅延を600ミリ秒程度まで抑えたという。これにより、オペレーターへの距離感覚提供と遅延性能の改善を両立させた。

5G利用方法での遠隔操作(クリックで拡大)
上部3個のディスプレイは俯瞰用カメラと車載全天球の映像、メインディスプレイは裸眼3D表示に対応し、建機ヘッドガードに設置された4Kカメラ2台の映像から4K3D表示している。

 実際の現場における施工効率を推測するため、コンクリートブロック積み上げ作業の作業時間を計測した。有人操作、目視遠隔操作、無線LAN遠隔操作、5G遠隔操作の各操作で数回にわたり実施し、無線LAN遠隔操作から15〜25%の改善を確認したとする。

コンクリートブロック積み上げ作業の作業時間比較(クリックで拡大)

 古谷氏は、「5Gの実用化によって、危険現場への作業員立ち入り回避や遠隔操作の効率性向上だけでなく、遠隔操作室を常設、遠隔操作オペレーターを集約し日本全国の現場で建機を操作することも考えられる」と語る。今後も遠隔操作システムの改良を続け、5Gの商用化を待って実際の現場に投入する方針だ。

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