では具体的にどう取り組むか。重要なのは、「いきなり全てをBIMで完璧にやる必要はない」という点だ。
入出力基準の全項目を満たすことが、誓約の条件ではなく、一部の項目だけでも誓約が可能だ。BIMライブラリ技術研究組合(以下、BLCJ)は、設計者向けの支援資料「BIM図面審査への取組みの要点」の中で「入出力基準の選択的適用」という考え方を示し、図書単位での段階的な取り組みを提案している。
まず平面図や求積図など、平面的な形状の明示が求められる図書から始める(ステップ1)。次に防火性能や排煙種別など、属性情報を活用した図書に広げる(ステップ2)。さらに立面図や断面図など、立体的な形状と属性を組み合わせた図書へ進む(ステップ3)。案件の特性や設計者のスキルに応じて、どこまでBIMを活用するかを予(あらかじ)め想定することが、労力と効果のバランスをとる上で有効だとBLCJは述べている。
また、全ての図書をBIMから出力する必要はない。断面詳細図や納まりに関する図面などは、従来通り2DCADで作成することもできる。整合性確認の省略対象とはならないが、誓約の対象範囲を設計者自身が選択できる柔軟な制度といえる。「自社の作業環境の中で自然に誓約できる範囲を出発点にする」というのが現実的なアプローチだろう。
ただし、BIMの整合性は、使い方次第で損なわれることもある。例えば、図面の表示範囲設定によっては、モデルが正確でも図面間に齟齬(そご)が生じるケースがある。BLCJはこうしたBIM特有のミスを「ヒヤリ・ハット事例」として整理しており、「設計者を対象としたBIM図面審査への取組みの要点」の中で原因と対策を確認できる。BIM由来の図書を誓約の対象とする以上、まずは一読することをお勧めしたい。
最後に、BIM図面審査の「先」に目を向けたい。3年後にはBIMデータ審査が予定されているが、どのように審査を行うのか、制度設計は目下議論中だ。いま確実に言えるのは、設計成果をBIMで構造化して記述するという行為そのものが、今後の制度に対応するための備えとなることだ。
筆者としては、ここで制度の議論から一歩離れ、もう少し広いスコープで考察してみたい。
目下の建築業界は、かつてない“苦難”と“可能性”が同時に押し寄せる時代を迎えている。労働力不足、脱炭素への要請、ストック型社会への移行、頻発する自然災害――どれ一つとっても、従来の延長線上では応えきれない。
一方で、BIMとクラウドという業務基盤の広がりとAIの加速度的な進化が合わさり、建築業界におけるデータの作り方や使われ方には、これまでにない可能性が広がりつつある。設計者の作業をテクノロジーが担い、かつ思考をアシストすることができれば、社会がより豊かな都市空間の創造に向かっていけることは、想像に難くない。
筆者の所属するオートデスクは、こうした時代に対して「Unlock Capacity(キャパシティーを解き放つ)」というテーマを掲げている。限られた人数で、より大きな成果を得るための効率化に加え、設計者が本来のクリエイティビティーを発揮するための環境をテクノロジーの力で実現する取り組みだ。
中核を担うのが、Autodesk AIを搭載した建築業界向けクラウドプラットフォーム「Autodesk Forma」だ。AIは設計者を置き換えるのではなく、思考をドライブして創造に集中するための“パートナー”として機能する。文書作成では生成AIでドラフトをまとめてから清書する流れが浸透しつつあるように、建築設計でもFormaのデザインツールでスケッチを起こし、Revitで全体を整合させるワークフローが現実のものとなってきている。特にRevitは、意匠・構造・設備のいずれにも対応している稀有(けう)なBIMオーサリングツールという点は、ぜひ言及しておきたい。
BIM確認申請に話を戻すと、BIM図面審査は単なる手続きと捉えるのではなく、自社の設計プロセスや情報の扱い方を見つめ直すためのイベントとして活用すれば、生産的な営みとなり得る。その一歩が、3年後のBIMデータ審査、そしてその先の新たな次元の創造の時代へとつながっていくはずだ。
田中 宏尭/Hirotaka Tanaka
オートデスク 日本地域営業統括 技術営業本部 テクニカルソリューション部 テクニカルスペシャリスト 建築・土木担当。
2017年に北海道大学大学院を修了後、大手組織設計事務所に入社。意匠設計者として大小さまざまな規模のプロジェクトに従事する傍ら、DX/BIM推進チームのコアメンバーとして活動。
2025年にオートデスクへ入社し、国内の建築業界のあらゆるステークホルダーを対象に、業務変革の技術支援に従事している。オートデスクのプラットフォーム(BIM×クラウド×AI)による創造的で合理的な建築生産プロセスの実現を目指す。
一級建築士、認定コンストラクションマネジャー、認定ファシリティマネジャー。
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