建設DXの推進を目的に建設テック企業が中心となり、2023年1月に発足した任意団体「建設DX研究所」。今回は、建築プラットフォームを運営する青山芸術が、とりわけ建築設計業界特有の業界課題について実例を交えて紹介します。
青山芸術は、建築プラットフォーム「アーキタッグ」などの運営を通じ、日本全国で建築設計に従事する専門家達と日々深くコミュニケーションを取り情報交換を行っています。
長引く人材難は製造業や医療業界など多方面で指摘されてはいますが、建築設計業界でもその影響は年々深刻さを増しています。2025年9月の建築設計事務所を対象とした調査※では、87%が「人手不足」と回答。設計現場や経営者から上がってくる生の声からも、人手不足の悩みは避けられない課題となっています。
※「特集 設計事務所白書2025」『日経アーキテクチュア』2025年9月11日号,p50-51,日経BP
背景には、都市再開発プロジェクトの大規模化、工場/データセンター/物流施設などへの旺盛な投資意欲があります。設計ニーズの裾野が広がる一方で、担い手となる設計者の数が追いつかないのが現状です。少子高齢化の波を受け、建築設計でも若手や中堅の人手不足に頭を抱える経営者は多いようです。また、近年の働き方改革の本格導入により、設計者一人当たりが担う業務量の最適化も進んでいます。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流の中で、建築設計の分野でもAIの導入は進んでいます。しかし、DXやAIの恩恵を受ける領域とそうでない領域の差は広がっています。
例えば、基本設計や詳細図面の作成といった設計者の主となる業務では、建築法規の知識や属人的な経験、設計者ならではの創造的な発想力、施主や施工者との連携といった複雑な専門能力を必要とすることがほとんど。AIが一定の支援や効率化を実現しても、実際の設計判断や法的責任を伴う業務を完全に自動化するには、まだ距離があるという見解が大宗を占めています。
むしろ、こうした高度な判断を担う人材こそが「設計者」であり、その専門性や創造力はAIに代替されにくいスペシャリストたちであり続けるとも言えるでしょう。
一方、ビジュアリゼーション(視覚化)などAI活用が急速に進展している領域もあります。
建築プロジェクトの初期段階では、施主やデベロッパーとのイメージ共有が欠かせませんが、これまでは建築士がゼロから3Dモデルを作成し、レンダリングやイメージ調整を重ねて美しいパースを作成していた場面が多いです。
重要かつ繊細なプロジェクトの局面では引き続き、そのような人の業(わざ)が発揮されていくと思われますが、よりラフで幅広い検討段階ではAIの活用も進んでいます。テーマやキーワードを入力するだけで、AIが瞬時に複数の建築イメージを生成するツールがいくつも登場しています。企画初期の方向性検討やクライアントとのイメージ共有が格段にスピーディーになります。
こうした変化は、単なる作業効率化にとどまらず、設計者がよりクリエイティブな価値創造に専念できる環境を整える契機にもなっています。
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