環境性能認証を取得するからには、少しでも高いランクを目指したいと考える方は多いでしょう。そのためには、最新技術や高性能設備を導入する必要があると思われがちですが、実は既存の技術を活用するだけでもランクアップは可能です。ここではBELSを例に、評価を上げるポイントを紹介します。
住宅では、空調や照明の高効率化でエネルギー消費性能を改善しながら、高性能な断熱材やサッシを採用して断熱性能を高めるのが基本です。しかし、全ての設備を高性能にするのは、コストを考えても現実的ではありません。そのため、床暖房や給湯暖房機のようにエネルギー消費が多く、省エネ指標を悪化させる機器の使用を避けるだけでもランクアップにつながります。
非住宅でランクを上げたい場合は、環境省が公開している「ZEB PORTAL」の「ZEBを実現するための技術」の考え方が参考になります。「パッシブ技術」「アクティブ技術」による省エネに加え、「創エネ技術」を組み合わせて全体の数値を改善するというものです。
パッシブ技術は、エネルギー消費を減らす技術で、高性能な断熱材の活用などで室内外の温度差を防ぎます。アクティブ技術は、エネルギー効率を高める技術で、LED照明などの省エネ性能の高い設備を使用してエネルギー消費を抑制します。創エネ技術は、再生可能エネルギーを活用する技術で、太陽光設備やバイオマス発電によりエネルギーを創出します。
ここまでの解説で、やはり高いコストをかけて、最新技術/設備を導入することが不可欠だと感じたかもしれません。ですが、高性能設備を導入しなくてもBELSの評価を上げることは可能です。BELSで最高ランクを取得し、ZEBまで取得した既存建築物の中には、汎用技術を組み合わせて実現した成功例も多数あります。
環境省のZEB PORTALで公開している久留米市環境部庁舎の事例では、汎用技術の断熱材吹付けや窓ガラス交換による外皮断熱強化、空調設備のダウンサイジング、LED照明、蓄電池の設置などにより、ZEBを実現しています。
設備のダウンサイジングとは、必要以上に高性能な設備を適切な性能のものに見直すことです。新築時は性能不足を避けるために、建築物の規模や使用実態に見合わない高性能設備を導入する傾向があります。後で実際の使用実態に合った設備に変更することで、ランニングコストだけでなく、イニシャルコストも抑えられます。仮に照明が必要以上に明るい場合、適正な光量の照明に交換するだけでも数値が改善する可能性があります。
既存建築物で環境性能認証を取得するのは、主にコスト面で難題と思われがちです。しかし、建築費高騰や省エネ適合性判定による手間の増加により、新築のハードルが上がっていることから、既存建築物の活用が注目されています。
環境省が紹介しているように、汎用技術を活用すれば、コストをそれほどかけずに環境性能認証を取得することも可能です。コスト面で悩んでいるのであれば、一度シミュレーションを行うなど、一歩踏み込んだ検討をされてはいかがでしょうか。
尾熨斗 啓介/Keisuke Onoshi
環境・省エネルギー計算センター(運営会社:HorizonXX)代表取締役。
日本大学 理工学部 建築学科、日本大学大学院 理工学研究科 不動産科学専攻卒業後、大手日系証券会社に入社。不動産ファンドアレンジメントやREIT主幹事業務に従事する。その後、大手外資系証券会社で同様の業務に従事。2012年に独立し、HorizonXX(ホライズン)代表取締役に就任。2019年に「環境・省エネルギー計算センター」のビジネスを開始。
現在、建築物の省エネ性能が基準を満たしているかどうか調べる「省エネ計算業務」を引き受け、国の政策推進に貢献する「環境設計士」という新たな職業の確立を目指し、年間約1000件の省エネ計算/環境性能認証取得サポートを請け負う。
近著に『環境性能認証に対応できる「不動産・建築ESG」実践入門』(日本実業出版社)。
★連載バックナンバー:
本連載では、環境・省エネルギー計算センター 代表取締役の尾熨斗啓介氏が、省エネ基準適合義務化による影響と対応策、建築物の環境認証などをテーマに執筆します。
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