本連載では、建築物の省エネ計算や省エネ適合性判定、近年関心が高まる環境認証取得サポートなどを手掛ける「環境・省エネルギー計算センター」代表取締役の尾熨斗啓介氏が、省エネ基準適合義務化による影響と対応策、建築物の環境認証などをテーマに執筆。第1回は、施行まで1カ月を切った「改正建築物省エネ法」についてこれまでの建築物省エネ化の経緯も踏まえつつ解説する。
2020年10月の菅義偉首相(当時)による「2050年カーボンニュートラル宣言」を契機に、建築/不動産分野でも建築物の省エネや環境性能がより重視されるようになりました。そして、いよいよ2025年4月から、全ての新築建築物に対して省エネ基準への適合義務が課せられます。
本連載では、建築物のエネルギー性能を表す省エネ計算や省エネ適合性判定、さらに近年新築/既存ともに関心が高まっているBELSやCASBEEなどの環境認証取得サポートを手掛ける「環境・省エネルギー計算センター」の尾熨斗啓介が、省エネ基準適合義務化による影響と対応策、近年注目を集める建築物の環境認証などについて押さえるべきポイントを解説していきます。
2025年4月に改正建築物省エネ法が施行し、原則全ての新築建築物は国が定める省エネ基準への適合が義務付けられます。これまでは延べ床面積300平方メートル以上の非住宅のみが対象でしたが、改正後は、届け出義務にとどまっていた300平方メートル以上の住宅や説明義務のみだったその他の建築物も適用範囲となります。
現在、新築建築物の年間着工棟数は約40万棟です。このうち、住宅性能評価などの評価制度/認証を活用する建築物、省エネ適合性判定の対象外となる新3号建築物(延べ面積200平方メートル以下の平屋建て)などを除くと、審査機関による省エネ適合性判定が必要な建築物は年間20万棟前後と予測されています。
ただし、省エネ適合性判定が不要の場合でも省エネ基準への適合は義務となり、一定の設備を導入することで基準を満たしていると判断される「仕様基準」などを除き、省エネ計算が必要な建築物は30万棟以上に上る見込みです。
改正前に省エネ適合性判定の対象となっていた非住宅は約1.5万棟、届け出対象だった住宅は約2万棟でした。つまり、法改正により省エネ計算が必要となる建築物の数は10倍以上に拡大することになります。今後、省エネ計算の需要は爆発的に増えることが予測されます。
既に法改正前から需要増加の兆しが見え始めています。改正法が適用されるのは2025年4月着工以降の建築物ですが、現状では行政への届け出で済む300平方メートル以上の住宅が、省エネ適判対象となるのを避けるため、駆け込みで省エネ計算を依頼しているケースが増加しています。
また、2025年4月からの省エネ基準適合義務化に向け、業界の受け入れ態勢はまだ十分とはいえません。計算需要の急増で省エネ計算会社や民間審査機関がパンクし、省エネ適合性判定を受けられずに着工できない「着工難民」が発生する可能性も懸念されています。
省エネ計算は複雑なため、多くの建築会社や設計事務所は省エネ計算会社に代行を依頼しています。現状、省エネ計算会社は個人事業主や小規模の会社を含めても50〜60社程度しかなく、急増する需要への対応が間に合わない恐れがあります。
こうしたケースを避けるためには、発注予約で事前に省エネ計算会社を確保するなど、早めで計画的な対応が重要になるでしょう。
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