それでは、どのように施策の「全体接続」を図ればよいのでしょうか。重要なのは全体的な視点で組織を捉えることで、その際に活用できるのが、5つの「M」で構成される組織要件フレーム「5M」です。
5つのMは全て有機的に結びついています。上段には「事業戦略(Message)」と「組織戦略(Motivation)」が位置します。企業経営においては、変化する方向性を見据えてこれらの戦略を立てる必要がありますが、それだけでは現場とのギャップが生じてしまいます。そのギャップを埋める要素が、下段の「人材開発(Membering)」「役割設計(Mission)」「管理制度(Monitoring)」の3つのMです。これらは「事業戦略」と「組織戦略」を最大化するための操作変数として機能します。
組織を全体的な視点で把握し、5つのMが連動していることを踏まえて施策を設計することで、課題に対して迅速かつ的確なアプローチが可能になるのです。
ここからは、特に戦略と現場のギャップを解決するために必要な3つのMについて具体的解説します。
企業が3つのMを検討する際のポイントは、業界傾向を踏まえて具体的な施策の方向性を考えることです。連載第2回でもお伝えしたように、建設業界では「上司/職場への満足度が低い現場はエンゲージメントが低い」という業界特有の課題があります。そのため、組織ごとに生じているマネジメントレベルの格差を念頭に置きながら、改善に向けた道筋を描くことが重要です。
Membering【人材開発】
Memberingは、人材の採用と育成、配置転換などを指します。建設業界では現場で成果を挙げた人が管理職に登用される傾向があります。しかし、マネジメントに必要なスキルを育成しないまま登用してしまうと、経営層の方針が現場に伝達されなかったり、現場が機能しなかったりといったリスクが生じます。そのため、管理職のマネジメントスキルを育成する施策として、研修やセミナー、管理職同士による事例共有会の実施などが必要だと考えられます。
Mission【役割設計】
Missionは、組織と個人の役割を明確にし、組織図、階層として組織構造を体系的に整理することを指します。建設業界では、階層ごとの具体的な役割の要件が不明確な場合が多く、管理職に示される役割が「事業推進」のみにとどまっているケースも見られます。しかし、管理職は事業を推進しつつ、メンバー育成にも注力する必要があります。
そのため、企業は「自社の管理職として、どのようなマネジメントを行うべきか」を明文化し、管理職に浸透させていくことが重要です。事業戦略や組織戦略を踏まえた「自社に求められる管理職像」を言語化することで、役割の明確化が可能となります。
Monitoring【管理制度】
Monitoringは、事業や組織のKPI/KGIなどの指標設計、人事制度設計などを指します。前述のように、建設業界では管理職に与えられた役割が事業推進のみにとどまっているケースが見られます。そのため、評価基準に人材育成や組織のマネジメントなど、事業推進以外の評価項目を設計する取り組みが求められます。
繰り返しになりますが、特に建設業界の場合、本社と支店で施策を連動させなければエンゲージメントの向上は見込めません。本社の5Mと支店の5Mは共通している部分もあれば異なる部分もあります。それぞれの5Mのつながりを考慮しつつ、最適な施策を導き出すことが重要です。
これまで解説してきたように、1つの組織課題に対して1つの施策を対応させても、エンゲージメントを高めることはできません。「組織は生き物である」という前提に立ち、いかに複合的に施策を連動させられるかがエンゲージメント向上のポイントです。
一方、取り組みを進める中で、エンゲージメントを高めること自体が「目的化」してしまい、事業成果に繋げられていない企業も存在します。
次回は、エンゲージメント向上を事業成果につなげるために押さえておきたい考え方について解説します。
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