本連載では、リンクアンドモチベーション 組織人事コンサルタントの山本健太氏が、建設2024年問題の解決策として、会社と従業員の間をつなぐ「エンゲージメント」とその向上策について解説していく。今回は、エンゲージメント向上の鍵となる「施策の連動」について取り上げる。
2024年問題への対応に追われる建設業界では、従業員の退職や採用難、人件費高騰などを要因とする「人手不足倒産」が増加傾向にあります。帝国データバンクの調査では、2024年度上半期(4〜9月)における人手不足倒産の件数は163件に達し、業種別に見ると建設業が最多の55件(前年同期51件)を占めています。
人手不足倒産の増加を受け、建設業界各社では人材の定着を図るための組織づくりが重要な課題となっています。その指標の1つとして注目されているのが「従業員エンゲージメント」です。しかし、思うようにエンゲージメントが上がらず、苦慮する企業は少なくありません。そこで今回は、エンゲージメント向上のポイントとなる「施策の連動」について解説していきます。
エンゲージメント向上を目的に組織改善に取り組んだものの、手応えを感じられず「もういいか」と活動を中断してしまうケースも見受けられます。「組織風土の改善」「エンゲージメント向上」などの目標を実現するためには、大前提として「組織とは何か?」を正しく理解することが不可欠です。
組織内で何らかの問題が生じたとき、「Aさんが悪い」「Bさんのせいだ」というように、個人の責任にするのはよくある話です。しかし、それでは本質的な解決には至りません。なぜなら、組織とはさまざまな要素が複雑に絡み合う集合体であり、組織の問題は「個人」に起因するのではなく、個人と個人の「間」に生じるものだからです。当社では、こうした組織の特性を踏まえ、組織とは「要素還元できない協働システムである」と定義しています。
分かりやすく例えると、組織は機械ではなく「生き物」であるということです。機械であれば、故障しても部品を交換すれば再び動くようになります。しかし生き物が病気になったときは、そう簡単にはいきません。風邪を治すには、薬を飲むだけでなく、栄養をとったり、身体を休めたりと、複合的に対処しなければなりません。同様に組織改善も1つの対策だけで解決するものではありません。
組織改善に行き詰まる企業によく見られるのが、「コミュニケーション不足には1on1」「管理職育成にはマネジメント研修」といったように、1つの課題に対して1つの施策を対応させるパターンです。組織を生き物と捉える以上、このような部分的対応では根本的な改善につながりません。重要なのは「採用」「育成」「コミュニケーション」「配置/異動」「役割設計」「人事制度」など、組織を構成するあらゆる要素を考慮して、施策を「全体接続」することです。
特に、建設業の場合は、本社と支店との施策連動は不可欠です。それぞれの支店が抱えている組織課題を解決することはもちろん重要ですが、それだけで会社全体が良くなるわけではありません。
例えば、ある建設業者のA支店で行った従業員アンケートでは、「職場では上司との1on1でキャリアについて気軽に相談できるようになったが、会社の制度が変わらないため、ここで働いていても理想のキャリアを歩める気がしない」といった声が多く聞かれました。実際、A支店の従業員は、上司や職場に対する満足度は高いものの、会社に対する不満から退職を決断する人が後を絶ちませんでした。
こうした例からも分かるように、どれだけ支店レベルでの課題解決を図っても、全社的な課題を放置すればエンゲージメントは向上しません。支店レベルと全社レベルの活動を同時並行で進め、施策の「全体接続」を図ることが、組織改善の鍵となります。
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