大林組は、山岳トンネルの切羽の火薬装填作業を遠隔化/自動化する「自動火薬装填システム」を適用し、トンネル外の安全な場所から遠隔で実火薬を装填、発破することに成功した。2024年12月2日、都内で記者発表会を開き、成果を報告した。
大林組は2023年9月に、慶應義塾大学 准教授 野崎貴裕氏らの研究グループと共同で、山岳トンネルの切羽(掘削面)の火薬の装填(そうてん)作業を遠隔化/自動化する「自動火薬装填システム」を開発した。遠隔で実際に触る感覚(力触覚)を再現できる「リアルハプティクス」の技術を応用し、遠隔にある対象をその場で触っているような感覚で作業できるのが特徴だ。
今回、自動火薬装填システムを長野県のトンネル工事現場に適用し、トンネル外の安全な場所から遠隔で実火薬を装填、発破することに成功。同時に、装薬孔の検知技術などを連携させ、装填作業の自律化も実現した。
今後は起爆用の爆薬を供給する「親ダイ供給装置」の搭載や、大型重機の自動運転との連携、火薬の脚線結線作業の自動化を進め、2026年度中の現場適用を目指す。将来は複数の現場の一括管理も目指す他、各作業を自律学習させることでトンネル掘削作業の無人化につながる開発を進める。
山岳トンネル工事で切羽直下に立ち入って行う火薬の装填、結線作業には崩落などの危険が伴う。作業中は簡易の落石防護ネットや屋根の設置などにより対策を行っているが、重大災害につながるおそれもあり、遠隔化が求められていた。一方で、火薬や雷管など危険性が高い材料や細かい脚線の使用、繊細な力加減や手指の感覚が必要なため、従来の遠隔化技術では実現が困難とされていた。
そこで大林組は、NEDOの若手研究者発掘支援事業の一環として、野崎氏らの研究グループと、リアルハプティクスを応用した自動火薬装填システムを開発。室内試験で、遠隔装填技術と、伝送される力触覚のデータを利用した自動装填に成功している。
今回の実証実験は、国土交通省中部地方整備局が発注した長野県下伊那郡の「令和4(2022)年度三遠南信6号トンネル工事」で実施。大型重機に搭載した装填ロボットを、切羽から30メートル地点と、切羽から320メートル離れたトンネル外で操作して、火薬の装填と発破を行った。
火薬供給には、紙巻の含水爆薬には熊谷組が開発した装置を、粒状の含水爆薬には粒状爆薬供給装置を使用した。さまざまなタイプの火薬の遠隔装填が可能で、アンホ爆薬やバルクエマルジョン爆薬などの火薬供給装置とも連携できる。
遠隔装填は、トンネル外のオペレーター室に設置したリモコン側と、トンネル内の切羽で実際に作業する装填ロボット側で構成。ロボットを大型重機で装薬孔の近くまで移動した後、オペレーターがトンネル外でロボットから送信される映像を見ながらリモコンで作業する。リアルハプティクスにより、リモコンとロボットの触覚を相互に再現することで、壁に接した感触や反発力をリアルタイムに伝送。実際に切羽で作業しているかのような感覚で操作できる。また、加わる力はリアルタイムにデータとして可視化し、強い力が作用した場合は安全装置が作動する。
装填試験では、自動削孔ができるコンピュータジャンボのマンゲージにロボットを搭載。人が火薬を詰める際に使用する「込め棒」を模したパイプにホースで火薬を送り込む構造とし、切羽から320メートル離れたトンネル外でも、火薬の装填と発破ができることを確認した。
遠隔化に加え、記録した遠隔操作の記録を再現し、自動で火薬を装填する自律化の取り組みも進めている。
自律化のフローではまず、ロボットに搭載したステレオカメラで装薬孔の位置や角度を検知。大型重機で装薬孔の近くまでロボットを近づけ、孔の中心かつ孔と正対する角度へ回転させ、押し込み動作を再現することで、火薬装填作業を自律化できることを確認した。
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