転機となったのが生成AIの「ChatGPT」の登場だ。上田氏は「生成AIをBizStackに融合させれば、現場のニーズにも応えられるのではと思い付き、BizStack Assistantをリリースした。従来のようにPC画面を操作するのではなく、現場で欲しい情報を自然言語の日本語で聞けば、必要な情報を優秀な部下のようにAIが返してくれる。これからは、日本だけでなく、韓国や中国の人口減、欧州での労働者不足など、労働人口の減少が世界的に深刻化する。そのため、日本で先行して解決し、世界へ広げるという“地球上の挑戦に、生成AIで応えていく”をスローガンに展開していきたい」と抱負を口にする。
MODEで製品の商品企画などを担うプロダクトマネジャーの渡邊飛雄馬氏は、BizStack Assistantを「あなたの現場を1番よく知っているAIアシスタント」と位置付ける。
BizStack Assistantは、50社以上50種類以上のセンサーに対応し、多様な設備からデータを集める基盤技術のBizStackと、データ構造化技術のEntity(エンティティ)モデル、LLMを使いこなす技術の3つのテクノロジーで構成している。
このうち、データ構造化技術については、IoT機器で取得するデータは拠点ごとやシステムごとにサイロ化してしまい、結合(連携)できないデータベース群や散乱したファイル、縦軸と横軸がそろっていない命名規則が不明なテーブルなど、“データレイク”という使えないデータの沼を作りがち。そこでMODEは、BizStackに搭載している独自の「Entityモデル」でデータを構造化している。
Entityは、現実世界の実体(実在物や概念)にデータを当てはめることを意味する。「IoTセンサーからデータを取ってくる瞬間からデータを構造化して、ぐちゃぐちゃなデータレイクを作らずに、階層構造でデータを保管する仕組み。特にMODEのEntityモデルは、データ収集直後から、データを整理して使える状態にするクレンジングしているのが他に無い特長となっている。当社では、こうしたIoTデータを現実世界と紐(ひも)付ける仕組みをデジタルツインと呼んでいる。デジタルツインは3Dかどうかではなく、現実世界をモデル化して、対応するデータを当てはめ、本当に活用できる状態にしているかどうかが重要となる」(渡邊氏)。
データの構造化により、時系列やログ、属性、ファイルごとにあらかじめIoTデータを分類しているので、○○工事の○日のデータなどピンポイントにアクセスできる。また、○○事業所以外は○○プロジェクトのデータは参照不可などのアクセス権限も、階層構造ゆえ簡単に設定可能だ。
BizStack Assistantの肝となるLLM(大規模言語モデル)は、質問に対する回答や自然な会話、既知の情報を扱うのは得意だが、最新の知識やデータの集計や計算が苦手とされる。そのため、LLM用のツールを作り、LLM自体に考えさせずに、データを参照したい場合はBizStackが値を持ってきてLLMに答えさせている。事前にEntityモデルでデータが構造化されているので、ファイルの場所やファイル名をその都度指定しなくても、会話のように自然言語で問いかけるだけで必要な情報にたどり着き、LLMで問題となる事実と異なる誤った情報の提示やウソをつく“ハルシネーション”も起きない。現状はGPT3.5ベースのLLMだが、今後さらに良いモデルが登場すれば、時代時代に最適なものに変更していくことも見据えている。
データ版で先行導入している西松建設の山岳トンネル工事では、坑内のカメラやIoTセンサーの取得データをBizStackに集約し、先端にあたる切羽などの状況も、その場に行かずに、BizStack Assistantに問い合わせて確認している。こうした利便性により、西松建設の現場監督によれば、点検や異常対応などに要する時間の40%削減を達成したとのこと。「現場がどうなってるかを1番分かっていて、その現場にあるものがどういったものなのか、いま何をしなければならないのかを適切に教えてくれるパートナーがBizStack Assistantだ」(渡邊氏)。
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