広島県動物愛護センターの移転新築で、設計者の住建設計は、BIMソフトウェア「Archicad」とGraphisoftのビュワーアプリ「BIMx」を用い、施主の広島県とのイメージ共有や合意形成に役立てた。施設の完成後には犬や猫の出張譲渡会で、BIMxでウォークスルーを公開し、動物愛護活動のPRに用いたという。
グラフィソフトジャパンは2023年10月、BIMソフトウェア「Archicad」の新バージョン発表を兼ねたオンラインイベント「Building Together Japan 2023」を開催した。イベントではユーザーを招き、「発注者と設計者に聞くBIM活用のメリットと課題」と題するトークセッションが設けられ、実案件でのBIM活用事例を紹介した。
今回は、「広島県新動物愛護センター」の新築工事で、BIMを活用したプロジェクトを採り上げた。登壇したのは、広島県 健康福祉局 食品生活衛生課 主査 坂井聡氏と意匠設計を行った住建設計 取締役 シニアマネージャー 原利行氏。司会は、グラフィソフトジャパンの志茂るみ子氏が務めた。
動物愛護センターは、動物愛護の啓発活動の他、野良犬や野良猫を保護して飼い主に返したり他の人に譲渡したりといった手続きを行う施設。本稿では、40年以上前に三原市本郷町南方に建てられた施設を、広島空港から徒歩11分の本郷町上北方に移転リニューアルするプロジェクトで、BIMがどのように有効活用されたかを発注者と設計者によるトークセッションから探る。
坂井氏は、従来の動物愛護センターは、狂犬病を無くすために野良犬を捕まえて効率的に殺処分するような目的で作られていたと説明する。しかし、時代が進むと、動物愛護の世論が高まってきた。新しい愛護センターでは、従来のような殺処分ではなく、収容した動物の譲渡促進や命の大切さについて学んでもらうコンセプトで運営されている。
当然ながら、新しい動物愛護センターにも、動物愛護の流れに沿った設計が取り入れられた。新しい動物愛護センターの設計を手掛けた住建設計の原氏は、「建築のプロではない施主に対し、図面だけでは空間を想像してもらうのは難しい」と話す。
そこで、BIMからパースを切り出して説明した。パースだけでは理解が不足している場合は、Graphisoftの3Dモデリングビュワーアプリ「BIMx(ビムエックス)」で、随時施設内をウォークスルーしながら提案した。
原氏は、BIMxによるウォークスルーの特徴として、図面やパースだけでは伝えるのが難しい部屋の大きさが一般の人にも伝わりやすいことを上げる。また、部屋と部屋のつながり(動線)を、働くスタッフや入館者の他、動物が入ってきた後の処置など、それぞれの立場や作業の流れに応じて確認するのにも有効だとする。
BIMxのウォークスルーで、床の処理や壁の仕上げなどでも施主の理解が得やすい。設計段階のウォークスルー体験で、直感的な指摘も可能になり、完成後に「こんなはすじゃなかった」というトラブルを事前に無くせるのも利点だ。
さらにBIMxは、施工段階で設計者と現場監督や職人とのコミュニケーションにも活用した。現場では、iPadでBIMxを起動し、スクリーンショット上に手書きのメモを記入して情報伝達を行った。
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