検査・点検向けの遠隔臨場でも安価な機材を使ったシステムが活躍しています。従来の臨場では、発注者や管理者が現場に出向いて検査や点検をしていました。特に土木分野では、交通の便が悪い山間などでの道路や橋梁(きょうりょう)の工事も多く、現場との往復に長時間の移動を要していました。
そこで、現場の様子をICTを用いて遠隔に伝えることで、移動をせずとも作業をできるようにする取り組みが進められています。
最も簡単な方法としては、オンライン会議システムのように現場のカメラ映像を配信して、共有することが挙げられます。しかし、現場のどこを配信しているかが分かりづらい、解像度が低く点検業務などには適用が難しいといった問題点もあります。
こういった課題を解決した事例として、360度カメラの活用が挙げられます。現在、複数の企業から360度カメラを使ったサービスが展開されていますが、共通する点として、現場で撮影した360度画像を図面と紐(ひも)づけて管理する機能が備わっています。図5のように図面上の撮影位置にアイコンが表示され、そのアイコンをクリックすると360度画像が表示され、臨場感がある写真を十分な解像度で確認できます。
また、360度画像は点検以外にも転用できます。同一箇所を時系列で撮影・管理した写真は、複数の用途で使うことで、データの価値が一層高まります。
例えば、図6のように、異なる日付の写真を比較することで、進捗度合いを確認したり、BIMと比較したりすることで施工が設計通りに行われているかの把握にも役立ちます。
他にも、図7のように、360度画像上に作業依頼のメッセージを記載し、事務所や会社に居ながらにして、具体的でタイムリーな作業指示を行え、現場からも返信メッセージによる報告が可能になります。ICT活用により、現場との密な連携が可能となるのです。
さらなるデータ利活用として、画像をAI解析する取り組みも始まっています。360度画像の場合は、壁や床、柱といった構造物を自動認識し、どの程度施工が進捗しているかAIを使って自動判定するというシステムが、海外では一部実用化されています。BIMや工程表のデータと比較することで、予定通り進捗しているか、遅延している場合はどの部分で発生しているかといったことが自動で示されます。今後、構造物以外にも仕上げなど工程表で管理される全ての項目の進捗把握が自動化される未来もそう遠くはないでしょう。
今回は、安価な機材と実用的なソフトウェアの適用例としてタブレット端末、360度カメラの事例を紹介しました。今後は、蓄積されたデータとAIを組み合わせた進捗管理など、さらに高度なサービスも出てくるでしょう。読者の方々の現場への適用も、ぜひご検討いただければと思います。
検査・点検業務に関する解説は、今回でクローズとさせていただきまして、次回からは「現場の安全衛生を支援する建設ICT」を採り上げていきます。現場の働き方改革が進む中で、労災リスクの高い建設現場の安全衛生は重要なポイントです。建設ICTを活用して安全衛生を向上させた事例や取り組みを中心に、トレンドをお伝えします。
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