“5G”普及のカギは通信キャリアが設備を共有する「インフラシェアリング」 屋内5Gで450物件を目指すJTOWERの事業戦略5G(2/3 ページ)

» 2023年05月02日 14時14分 公開
[加藤泰朗BUILT]

 JTOWERは国内だけでなく、2017年にベトナムに進出するなど、アジアを中心に海外でもIBS事業を展開している。2023年1〜3月には、2022年度の総務省事業「ベトナム社会主義共和国における屋内通信インフラシェアリング実証試験の請負」に請負事業者の1社として参画。その後、2023年4月17日には、ベトナムでの5G早期普及に向け、通信トラフィックの多いホーチミン市の商業施設「Parkson Saigon Tourist Plaza」で、5G通信環境をインフラシェアリングで構築し運用するベトナム初となる5G屋内インフラシェアリングの実証試験を実施した。インフラシェアリング導入によるコスト、電力などの削減効果を定量的に明らかにしたと発表した※2

ベトナム初となる5Gインフラシェアリング実証試験の概要 ベトナム初となる5Gインフラシェアリング実証試験の概要 提供:JTOWER

※2 JTOWERプレスリリース「JTOWER、ベトナム初の5G屋内インフラシェアリング実証試験を実施」

通信鉄塔の合理的運用を実現する屋外タワーシェアリング

 JTOWERは、屋内だけでなく屋外も対象にした「屋外タワーシェアリング」事業を展開している。通信鉄塔などの通信施設をJTOWERが保有して運用し、携帯キャリアなどの通信事業者で共有するサービスだ。

 2020年度に屋外タワーシェアリング事業に本格参入し、2021年度にはNTT西日本、NTT東日本、NTTドコモと、既設鉄塔の取得(カーブアウト:carve out)に関する基本契約を締結。合計6209本(NTT西日本:71本、NTT東日本:136本、NTTドコモ:6002本)の通信鉄塔を買い取り、2022年内に546本の移管を終えている。残りの鉄塔も、2023年度中に完了する予定だ。

屋外タワーシェアリング事業(カーブアウト)の計画 屋外タワーシェアリング事業(カーブアウト)の計画 提供:JTOWER

 また、通信鉄塔の買い取りと並行して、都市圏や郊外圏のルーラルエリアに通信用タワーを自社で建設する事業も進めている。田中氏は背景に、総務省が5G普及のために示した「基盤展開率」があると話す。「総務省は、5Gの周波数割り当てに際し、これまでの人口カバー率に代わって“人口基盤展開率”との目標値を設けた。目標値達成のために、各キャリアはルーラルエリアでも基地局の整備を早急に進める必要が生じた。ただし、異なるキャリアがバラバラで進めるのは非効率なため、2社以上のキャリアが重なるエリアに当社が共用タワーを建設し、シェアすることを考案した」(田中氏)。

 2023年2月には沖縄県国頭郡に建設したルーラルタワーで、携帯キャリアへの提供を開始し、2023年3月時点で150本のルーラルタワー建設が決定している。

ルーラルエリアでのタワーシェアリング事業の状況 ルーラルエリアでのタワーシェアリング事業の状況 提供:JTOWER

 屋外タワーシェアリング事業の今後について田中氏は、「既設鉄塔の取得や自社タワーの設置だけでなく、将来は鉄塔の統廃合(デコミッショニング)のニーズも出てくると考えている」と述べ、事業の広がりへの可能性を示した。

新たなソリューションでインフラシェアリングサービスの価値向上を目指す

 事業の3本目となるのは「ソリューション事業」。インフラシェアリングサービスを提供するうえで、負荷価値を向上するさまざまなソリューションの開発を進めている。ソリューションの一例としては、2021年にキャリア5Gとローカル5Gを共用する装置の開発を完了した。徳島県庁と徳島県立中央病院で日本初となるキャリア5Gとローカル5Gのハイブリッドなネットワークを構築し、2022年12月より運用を開始している。

ソリューション事業の概要 ソリューション事業の概要 提供:JTOWER

 また、「SITE LOCATOR」は、屋上スペースを貸し出したいビルオーナーと携帯基地局を設置したいキャリアのニーズをマッチングするためのデータベース。都市部では携帯基地局を設置するのは、だいたいが屋上。屋上を貸し出してもいいビルオーナーの情報をあらかじめデータベース化することで、キャリアが基地局設置の検討を合理的に進められるシステムだ。

 他にもインフラシェアリンのアップセルとして、クラウドWi-Fiソリューション事業を展開している。

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