総務省の「住宅・土地統計調査」(2019年4月26日公表)によれば、国内の空き家数は一貫して増加し続け、1988年から2018年までの30年間には452万戸(114.7%)が増え、空き家率(空き家戸数が総住宅戸数に占める割合)も2018年には13.6%に達している。深刻化する「空き家問題」に対し、行政と民間が連携した取り組みが求められる一方で、現状ではハードルも多い。
空き家問題に官民連携で取り組む、クラッソーネ、AGE technologies、FANTAS technologyの民間企業3社と地方自治体が共同で2022年5月、「空き家施策における公民連携」をテーマとしたWebセミナーを開催した。セミナーの各講演とトークセッションの要旨を上下編の2回に分けてレポート形式で振り返る。
セミナー最初のスピーカーは埼玉県横瀬町 町長 富田能成氏。横瀬町は、埼玉県秩父地方に位置する人口8000人超/世帯数約3300世帯の小さな町で、人口減少に頭を悩ませている。このまま対策をとらなければ、人口は20年後には3分の2に、40年後には3分の1にまで減ると想定されており、まさに「人口減少と正面から向き合う」ことが行政の最大のテーマとなっている。
そこで横瀬町が打ち出したのは、「町をオープンにして外から人・モノ・金・情報を呼び込む」戦略だった。2006年10月には、事業やプロジェクトを誘致する官民連携プラットフォーム「よこらぼ」を立ち上げ、5年間で180提案を得て104件を採択/実施したが、そのなかで97番目がFANTAS technology提案の「空き家の可能性見える化プロジェクト」だった。プロジェクトでは、空き家所有者に調査を依頼するかどうかのダイレクトメールを送り、返信があった物件については無償で調べ、最終的に資産価値を高める空き家活用の提案を提出した。結果的に2021年には13物件を調査し、このうち2件で賃貸契約が成約し、4件が賃貸/売却の検討を開始することになり、空き家の流動化促進につながる流れが生まれている。
プロジェクトの背景には、2020年に横瀬町が設置した「空き家対策プロジェクトチーム」による空き家物件調査があった。同チームの調査で、町内の家屋数3000軒弱のうち、空き家は235軒で、うち危険空き家が11軒。リノベーション可能な家が30軒弱と判明。調査結果をもとに、固定資産税の案内ダイレクトメールに、「空き家土地利活用最新事例」を同封して送付したのである。
富田氏によれば、ポイントはチラシに担当者3人の顔写真を載せたことにあるという。売る/貸す、リフォーム、解体の各担当者を明確に示すことで、年間30〜40件ものリアクションに結び付いた。「行政の財政が厳しさを増すなかで、マイナス資産をプラスのバリューに変えて行くことが重要になる。そのチャレンジは、むしろ地方の方がチャンスがある。テレワークやワーケーションの進展とともに地方のハンディは消え、そもそも物件のバリューが低いのでトライアルもしやすい。地方だから可能な“取りあえずやってみよう”でチャンスも広がっていくはずだ」。
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